2007/1/27

暴力団に今、何が? 山口組元顧問弁護士が語る

山之内幸夫さん 映画「悲しきヒットマン」原作 異色の弁護士

「いつまでももめ事を起こさないなんて、どだい無理」

 抗争を繰り返すことで敵対組織をつぶし、吸収し、日本最大の暴力団組織へと拡大してきた山口組に大きな変化が現れている。昨年1年間、全く抗争が起きなかったのだ。もちろん史上初めてのことだ。そこで元顧問弁護士で、アンダーグラウンド事情に詳しい山之内幸夫弁護士に、最近の大阪を中心にした暴力団のシノギ(資金源)や、抗争の危険性などについて話してもらった。

 −かつては刑事事件を専門のように扱っておられたが、最近は民事が多いとか。

 「確かに山一戦争≠ゥら1991年に逮捕≠ウれるまでは刑事ばかりだった。今はそれを減らして、民事を増やしている。扱う半分ぐらいが不動産絡みだ」

ミニバブル♂キ床に不動産でシノギ 法強化恐れ「抗争厳禁」

値上がり背景に食い込み図る

 −不動産をシノギ(資金源)にする組員が増えているのか。

 「今、大阪では大阪駅前と御堂筋を中心にした一帯がミニバブル≠ニいえる状態になっており、さらに横に広がりつつある。とくに北区は今年、公示価格が40%も上がるようだ。場所によっては価格が3−5倍にもなっているというから、これはもうバブルといえる。実際、御堂筋では坪800万が4000万円になっている所がある。当然、このミニバブルに伴う需要、仕事がある」

 −利権の臭いがするところには集まるというわけだ。

 「土地の転がしをやっている不動産業者はたくさんいる。そこには仲介や地上げに類似した仕事も出てくる。ここ2年半でものすごく上がったから、食い込んでいけば、利権になる余地がある」

 −かつてのバブル時代の再来なのか。

 「地権者にうまくつばをつけて、購入の先頭に立って動けばもうかる。前のバブル時代は暴力的な地上げが多く、無法地帯みたいなものだった。今回は地上げに似たものはあるが、さすがにあのころやっていたような無茶苦茶なことはしない」

 −組員が独自に売買に手を出すことはあるのか。

 「かなりの資金がいるので、ヤクザが自分でやるのは無理。地権者や所有者に使われる立場。なんとか立場を確保するか、食い込んで行こうとするが、こういうことをスマートにできる人は少ない。しかし一発当たれば大きいので狙っている人は多い。うまく入り込んで占有して、強制執行妨害にならないように警察をかわしきれれば、もうけは大きい」

ヤミ金需要増大 パソコンソフトも

 −最近のシノギでほかに目立つのは。

 「収入源として大きくなっているのが、ヤミ金にからむもの。貸金業規正法が改正され、大手消費者金融が面倒を見ていたグレーゾーンがなくなる。となるとヤミ金の需要が増大する。大手消費者金融で借りられない人たちがターゲットだ。なかには破産した人を専門に勧誘しているケースもあるぐらいだ」

 −はやりのシノギはあるのか。

 「パソコンを使ったものが最近目立ってきた。多いのはDVDソフトやインターネットからダビングした裏ビデオのたぐい。これをインターネットか路上で販売する。大きな収入源ではないが、3年前にはほとんどなかったシノギで、増えているというより、新しいシノギという分野だ」

強力な規制が抗争封じ込め 組員「社会の様子うかがう」

「使用者責任」判決で抗争回避

 −ところで、昨年は抗争がなかったが。

 「山一抗争後、国の締め上げが一気に厳しくなった。暴力団対策法が施行され、使用者責任を認める判決(2004年、抗争実行者の組員が所属する山口組組長に対して、使用者としての責任で賠償を命じた)も出された。これが大きかった。そのうえ組織犯罪処罰法とか共謀罪もでき、あらゆる意味で非常に強い規制が暴力団に敷かれた。抗争を派手にやれば、もっと厳しい法律ができるのでは、との恐れを感じている。結局、これ以上に法律や判例が出ないよう、できるだけリスクが大きい抗争は避けようとしての結果だろう」

 −山口組では「抗争厳禁」の通達が出ているとか。

 「今の山口組の執行部は非常に厳しい。そのため直系組員も自分勝手な行動は取れない。抗争を起こすなという非常に強い意向を上は持っており、他団体もそんな山口組に沿う考え方を示している。これまでは考えられなかったが、今はそういう時代だ」

 −九州であった発砲事件が抗争とは認められていないため、昨年は全国でもゼロといえる1年だった。


 「次々と新しい法律ができ、組員たちはやはり不気味だと思っているはず。暴対法の時もそうだったように、どこに追いやられるのかと、社会の変化に不安感を持ち、様子をうかがっている状態だ。今はとにかく親分が責任を取らなければならないようなケースだけは避けようと。それが全国的な傾向だと見て間違いない」

進む寡占化、山口組の一人勝ちへ

 −山口組は盃外交も積極的だし、より一段と寡占化が進行している。少し前までの3極≠ェ今や山口組の一人勝ち状態ではないか。


 「確かに山口組の寡占化が極端に進んできているし、積極的に平和外交もやっている。山口組は来るものは拒まずの姿勢だし、他団体は山口組と友好関係を持とうとしている。それは抗争のリスクを避けるため、保険に入るようなものだと思う。そうしておけばもめ事が起こった時にも、話し合いで解決できる道がある。一本どっこだと組がつぶれる最後の最後まで戦わなくてはならない危険があるが、傘下に入っていると、どこかで話し合いの手が入るはずだ」

「平和いつまで続くか極めて疑問」

 −しかし、暴力を信奉する集団が違法な稼ぎを求めてうごめく状況で、ケンカするなという状態が果して維持できるのか。

 「今はみんなが賛同している。が、組員がシノギを削っていく中で、この状態がいつまでも続くのかとなると極めて疑問だ。いつまでももめ事を起こさないで、話し合いでとか、禅譲しろとばかり言っていたら、持たんでしょう。どだい無理だ」

 −山口組の寡占化を前に、他団体はそれで納得しているのか。

 「疑心暗鬼だろう。内心は恐れもあるに違いない。東京もかつては絶対に菱の代紋≠ヘ揚げさせないはずだったが、もう有名無実になってしまった。しかし暴力団全体に、いつ違法とされる存在になるかわからないという恐怖がある。組織を抹消されないために、抗争を避けることを優先しているのが、今の暴力団社会の姿だろう」


山之内幸夫氏プロフィル

 1946年香川県小豆島に生まれる。2歳のころに来阪。黒門市 場の魚屋の二男として育つ。70年早稲田大法学部卒業。72年司 法試験に合格し、75年に大阪弁護士会に登録。主として刑事弁 護士として活躍する。76年ごろから暴力団組員の弁護が増え、 84年山口組顧問弁護士となるが、87年に大阪弁護士会から「暴 力団の顧問は弁護士の品位を害する」として懲戒処分を受ける。 91年には恐喝罪で大阪府警に逮捕されるも、裁判で無罪となる。  88年「悲しきヒットマン」で作家デビュー。以後、弁護士業 務のかたわら「チャカ」「弾劾証拠」「しのいだれ」「悪徳弁護士」 「実録女師」「ヒットマンの妻」「はぐれ弁護士生贄の記」などの 著作を書きまくり、次々と映画化もさせる。また98年10月に は「劇団ひかり」を主宰し、俳優も兼業。映画出演も多い。  「年齢もあり、最近は書くのがシンドイ」とか。今後は弁護士 活動が中心となる。


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