2006/9/16
浪速のJoe 辰吉丈一郎インタビュー 第2章
親から受けた恩は、子につなげて返していかなアカン
前週はプロボクサー・辰吉丈一郎(36)が「いかにWBC世界バンタム級チャンピオンの地位奪回に全力を尽くし、生きているか」を紹介した。その辰吉を支えるのが、3人の家族。年上女房でマスコミでも知られたモーレツかあちゃん≠フ妻るみさん(41)、中学3年生で「来春卒業したら父と同じ道を進む」と宣言している長男寿希也(じゅきや)くん(14)、性格が辰吉似で熱血負けず嫌いの小学4年生の次男寿以輝(じゅいき)くん(10)だ。加えて辰吉一家は、るみさんの実家でもある守口市の喫茶店「白千館」のすぐ近所に住み、彼女の両親や兄夫婦の徳丸さん一家といつも協力しあって生きている都会には珍しくなった大家族でもある。その家族感を聞いた。
−あくまで「WBC世界バンタム級王者」にこだわるのは、亡き父粂二さんの影響がある。
死んだ父ちゃんの霊前に「4回目の世界チャンピオンになってベルト見せる」って約束した試合、同じ相手にKO負けした。98年年末のタイトルマッチで3回目の防衛に成功して辞めるつもりやった。それがKOで負けて、翌99年1月に父ちゃんが死んだ。直前に「丈よ、自分のケツは自分で拭け。男やったら最後に笑うんや」と言われた。このままで辞められへんよ。
−「約束を果たすまでやる」と、いうこと?
父ちゃんの墓はもう岡山に作ってあって、毎年家族で墓掃除にいってきれいにしてある。でも未だ納骨してへんのよ、遺骨は僕の家にある。4つ目のチャンピオンベルトを取って、初めて父ちゃんも眠れる。ぼくの父ちゃんやから。 −親一人子一人の親子やったからね。 ぼくはファザコンです。辰吉の家の名前にプライド持ってる。父ちゃん大好きやから。
−ボクシングもお父さんに教えてもらった。
たまたま親戚に高校時代にボクシングやってる人がおって道具があった。それを使って小さいころから、父ちゃんに教えてもらってた。ぼくは5歳までしゃべられへんかったんで、いじめられとったんです。山奥に住んでいて、父ちゃんは無口やったから言葉を覚える機会が少なかったからね。ある日父ちゃんに「1発だけやり返してこい」と言われ、その通りにしたら相手が倒れていた。こっちがびっくりしたワ。父ちゃんにそのことを話したら「ずっと練習してたから強うなったんや」と始めて教えてもろた。それからいじめられた事は1回もないです。
−家事が得意になったのも子供時代。
「人にはそれぞれの道のりと手順がある」と父ちゃんに言われて、野菜の切り方からご飯の炊き方まで全部教えてもろた。腹が減ってすぐ目の前にメシがあったらありがたみがわからん。メシの準備をし始めても食べられるまで小1時間は掛かる。その流れをずっと見せられながら「だからこそ食べた時に本当にうまい、と思えるんや」と教えてもろた。
−そうした教えを、親になって今実践している。
親から受けた恩は、子につなげて返して行かなアカンでしょ。人間が成長するのは、子供が親を超えるからや。でなかったら、今も馬やカゴに乗っとるで。それが進化というもんやろ。
−今の時代は「子供が言うことを聞かない」と悩む親が多い。
子供も日々成長してるからね、本気で接していない親の言うことを聞くはずないよ。親がエェ加減に接しているから、子供も聞かない。子供は自分を映す鏡や、親の都合でかわいがるペットやないんや。
−子育てでも「両親の育児分担」に熱心やね。
2人が愛し合って出来た子供やんか。生まれた後に父親の方だけ「オレは仕事が忙しいから、お前に任せた」で母親に押しつけて子育ては出来んよ。両親が役割分担して2人で育てなアカン。ぼくは自分の子供を他人に預けるのも嫌や。子供を放っておいて親が遊びに行くのも論外。ご先祖さまからずっとつながって受け渡されている大事な物を忘れてるよ。
−辰吉家の家長としてお金に関しても主導権を持っているの?
毎日仕事してるわけやないからな。生活は過去の蓄えでまかなってるから正直シンドいよ。時々、イベントなどに顔出したりして祝儀をもらう事がある。そうした金は嫁や子供らとパーッと使うんや。泡銭には泡銭の使い方がある。米やおかず買ったりする生活費をそこから出すようになったら終わりよ。生活費はあくまで正業(ボクシング)で稼いだ金を使うようにしとる。
−かつて粂二さんは「丈がおらんかったら、ワシはもっとつまらん男やったと思う」と言われていたが。
子供がいたからぼくも随分成長したと思うよ。未来のある子供にキチンとバトンを渡す気持ちが大切や。子供と真剣にコミュニケーションせな。用事がないのに子供は親を呼んだりせえへん。そんなんだと自分の都合のいいときだけ呼んだって子どもは来えへん。「お前、どう思てんねん?」とちゃんと子供に聞いてやる事が大切や。
−そうして育てた息子さん(長男寿希也さん)が父と同じ道を歩もうとしている。正直、どんな気持ちなの?
親が幸せを感じる時は、子供をかわいがっている瞬間や。甘やかしたりなだめたりして自分もうれしくなる。その子供に親の自分の仕事を否定されたら心は痛いよ。でも「同じ仕事をする」と言われると、「ちょっと待ってや」という気持ちになるな。
−天才辰吉として教える側に回るのはつらい。
そういう事じゃなくて、教えるという事は鬼にならんとでけん。辰吉の子やから、ボクシングでデビューしたら注目されて当たり前や。バッシングにも耐えなアカンし。やる以上は勝て、やから。
−寿希也さんの素質についてどう見てるの?
悪くはないよ、センスの善し悪しはある程度見たら分かる。ただし、あの子は早行き(1月生まれのため、同級生より歳が一つ下)で、まだ発展途上や。土台が十分出来上がっていないな。
−同じように2人の息子にプロ入りさせた大相撲の二子山親方(元大関貴ノ花)は、「親なのに、見守るだけで何もしてやれない地獄のような日々。何度も後悔した」と私に言われたことがある。
息子のリングを見守る自分の姿は未だ想像できんけど、祈るしかないやろね。俗に「天の時、地の利、人の和」というが、ホンマに前途多難な世界や。マッチメイクの運不運やケガ、その他色々な事があるから。
−既に覚悟は出来ている、と見たけど。
いや、親として助けられない、ほめられない世界に子供を進ませるのはホンマつらいよ。親子でありながら、怒る事もでけんのやから。子供がやるのやったら、親は教えてやらんとアカンけど、今は何にも出来へんな。けど後輩も含めて、かわいい相手に厳しくは出来へんなぁ。

▲取材場所は、辰吉さんの義母が経営する喫茶店「白千館(はくせんかん)」。=大阪府守口市
−勝負の世界は冷酷非情やからね。
やる以上は常に勝利を意識しないとダメ。でも勝負の世界は、ざ折と敗北が付いて回る。ボクシングを続ける限り無敗で引退する事は不可能やと思う。敗北は自信満々を断ち切られる事でこれはなかなか立ち直れへん。ざ折は勝っている時もあるんで、キツくない。ここからどう工夫して次に進むかや。
−今は寿希也さんと一緒に大阪帝拳ジムに自転車で通っている。
教えるというより、独りやとどうしてもサボるからな。ぼくが見ている方が(寿希也も)一生懸命やりよるよ。一緒に自転車で往復1時間の道のりを走っていると色々な話を2人でできる。こういう時間が大切やな。
−世間でよく言われる「子供の才能を伸ばす教育」やね。
自分もそうやったけど、子供は「勉強もせい、スポーツもせい、片付けもやれ」と言われて全部できるはずがない。集中できることは一つだけよ。例えば、勉強出来る子は本を読むのが好きで、勉強する事が楽しいからや。ボクシングが好きで、それに一生懸命になれる子供はそれをやればいい。親があれも、これも≠ニいうより、子供の本当にやりたい事をやらせてやればエェやんか。
−世間は厳しくても、親に愛されて育った子供は幸せや。
ぼくも16歳で片道キップだけ持って岡山から出てきてボクシングで生きてきた。ウチの子ももうすぐ16歳になったら独りで生きていかなアカン。それまで親が子供をかわいがるのは当然の事や。それが親バカや言われるんやったら、ぼくは親バカでエェよ。
インタビュー/畑山 博史
取材コーディネート/柚木 力
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