週刊大阪日日新聞

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2018/10/13

そうやったんや! 畑山博史のわかるニュース

角界去った貴乃花 聞く耳持たぬ頑なさ

 平成の大横綱°M乃花(46)がついに角界を去った。私は彼の実父の元大関貴ノ花(2005年に55歳で死去)とは同い年で旧知。当時は日本相撲協会の三賞選考委員を務めていた。私自身もアマチュア相撲5段で西日本学生相撲連盟副理事長。すぐそばで、若貴兄弟の出世と終息を見続けてきただけに、言い尽くせないむなしさが胸中を去来する。世間では、にわか評論家が岡目八目でこの問題を論評しているが、とても読むに耐えない。すべてを読者のみなさんに明らかにする訳にはいかないが、できるだけ核心部分を述べたい。

引き金は貴ノ岩暴行事件

 いきなりだが「なぜ突然、相撲協会を辞めたのか?」について書く。私は、昨秋の横綱日馬富士による貴ノ岩への暴行傷害事件の処理過程について本欄で書いたとき、すでにこの日が来ることを恐れていた。

 暴行翌日の巡業地・鳥取の相撲会場で、貴ノ岩の方から日馬富士にわびを入れている。角界は番付がすべて。まして横綱は神様で力士の誰も逆らえない。2人は握手して和解し、一件落着のはずだった。事実、貴ノ岩は師匠の貴乃花親方に問い詰められたときも「転んだ」とウソをつき、必死でコトを荒立てまいとした。

 その後の貴乃花親方の行動言動はご存じの通り。協会の宝である横綱が内輪もめで引退に追い込まれ、貴乃花一門の親方衆は、「やりすぎだよ」と肩を落とし、1人、また1人と潮が引くように去って行った。

そして誰もいなくなった

 貴乃花親方にすれば一貫性を持って筋を通し続けたつもりだが、振り向けば誰もいない。親方衆だけでなく、彼に近い後援者ほど耳が痛いことをあえて言わず次第に距離を置きはじめ、やがて黙って去った。入れ替わるように、親方の言うことを何でも聞く正体ははっきりしないが、妙に羽振りのよい紳士たちで次第に回りを囲むようになった。

 私はそんな1人との酒席で、ポロッともらした一言にゾッとした。

 「僕らは相撲に何の興味もないんです。(貴乃花)親方に理事長になってもらって、相撲グッズの販売権を手に入れたいだけ」。

 純粋に相撲道を追い求める貴乃花は、周囲の人の善悪を見極めるのが苦手だ。彼の判断基準は「自分の言うことを受け入れてくれるのはいい人。そうでない人は敵」と単純なのだ。かくして、協会内に彼の同志はいなくなり、ついには本場所中、彼と口をきく人は誰もいなくなった。

 協会執行部が打ち出した「すべての親方は既存の一門に所属することにしよう」という公益財団法人としての取り決めは、本来そう難しい話しではない。だが、孤高の貴乃花にとって、他の一門の扉を叩くのは、到底受け入れられなかった。

政界進出、渡りに舟

 「畑山さん、今後どうしよう?」

 彼に近い存在のある人物から突然、電話が入った。実父の師匠死去後、実兄虎上(まさる)さん(元横綱三代目若乃花)や実母・憲子さんとも没交渉だけに、周囲はたちまちの生活資金を案ずる。内容は知らないが以前、「来春には(借金が)一段落する」と言うくらいだから何がしかの負債がまだあるようだ。「背に腹は変えられない」と、どこかの経営者に取り入って顧問や参与にしてもらい、糊口をしのげる要領の良さが貴乃花にあるならば、誰も心配はしない。

 結局は、抜群の知名度を生かし、来夏の参院選でタレント候補として政権与党から比例区出馬するしかない。全国からの個人得票順に当選者が決まるから、赤じゅうたんを踏む可能性は極めて高い。相撲協会をはじめとする「スポーツ界の改革」を公約にすれば世間の支持も広がるだろう。

 しかし、あの頑な性格を少しは改めないと、せっかく当選しても、人間関係でまた途中挫折する恐れもある。

高い自意識、捨てられず

 今となってはむなしいが、貴乃花は協会で一体何を改革し何を守ろうとしたのか。彼は「僕は貴乃花だ!」という自意識が極めて強い。大阪場所部長の時代には「こまめに関西財界トップを自ら訪ねて、券売やポスター掲示に協力してもらいなさい」と彼にアドバイスしたことがあるが、まったく実行しなかった。

 一方でテレビカメラの前で知事や市長を表敬訪問することには積極的だ。これらはすべて「自分は人気者」という意識からで、私は何度も忠告したが、その行動は変わらなかった。

 当時からわんぱく相撲の指導に熱心で、「義務教育の体育に武道実習が取り入れられた。ぜひ相撲の実技指導をしたい」と言うから、私は「教育現場は男女同権。女人禁制というわけには行かないよ。私たちが推し進めている世界基準SUMOは、男女が体重別に戦う個人格闘技だからね」と説明すると、「土俵は男が命を掛ける場。そこに女とは…」と絶句し、途端に不機嫌になったのを記憶している。

相撲は古典芸能的

 確かに相撲協会は発想が古いし閉鎖的だ。しかし、そんなことは企業経営や各種競技団体の運営だって似たようなものだ。創業ワンマンオーナーの会社でない限り、組織を率いるには周囲の協力は絶対に必要となる。論語にある「信なくば立たず」だ。

 大相撲を仕切る日本相撲協会の弱点は、プロ野球やサッカーJリーグのように「指導と経営の分離」ができていないことだ。プロ野球に例えれば、監督だけでなく球団オーナー(部屋持ち親方)やリーグ会長(一門選出理事)もコミッショナー(理事長)もほぼすべてが元力士で構成されている。

 しかも、現役時の最高位がすべてで、横綱や大関を経験していない親方は理事になれても、理事長になるのは難しい。また親方株を手に入れるには、まとまった資金が必要で、その手当てができず優秀な指導者が仕方なく、角界を去る姿を私は何度となく目の当たりにしてきた。

 すべて合理的に構成されるのがベストなら、21世紀にちょんまげや化粧まわし、土俵上女人禁制は不要。われわれアマチュア相撲の指導者は、そうした様式美に彩られた大相撲を能や歌舞伎のような古典芸能的なものとして捉え、純粋スポーツとして同列視していない。

 相撲の立ち合いは「何も考えず。思い切って頭から当たって。とにかく前へ出ろ!」と教わる。しかし、人の心は相撲のように「とにかく勝てばいいんだ!」と単純には行かない。だからこそ貴乃花の前途は難しい。


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