週刊大阪日日新聞

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2018/9/1

生き方変えた「一冊」ずらり アメ村の人生図書館

絵本や小説などの寄贈 メッセージ付き200冊


▲「誰かの人生に関わった一冊とのすてきな出合いを楽しんで」と来館を歓迎する田中館長

 大阪・ミナミのアメリカ村にたたずむマンションビル(大阪市中央区西心斎橋)の一室に、隠れ家のような「人生図書館」がある。落ち着いた空間にはメッセージ付きの寄贈本がずらり。誰かの生き方を変えた「人生の一冊」が来館者を出迎えている。

 同区のボルト製造会社「丸ヱム製作所」に勤める田中希代子さん(57)が館長を務める。田中さんは自社ビルのマネジメントを担当しており、「空き部屋をコミュニティーの場にしたい」と会社に直談判。地域貢献ならと無償貸与を受け、2010年にオープンさせた。

始まりは20冊

 「1人1冊、メッセージ付き」にこだわり、知人から譲り受けた20冊でスタート。図書館の存在は口コミで広まり本棚が埋まっていった。手あかのついた本を手渡しに来る人もいれば、新品を郵送で届ける人も。今では絵本から小説、自己啓発、詩集、漫画まで200冊が並ぶ。

 図書館は1日2〜3人が利用。「『人生図書館』の名前からか、少しアンハッピーな時に訪れる人が多いように感じます」と田中さん。失恋した人、人間関係に疲れた人、再就職先を探す人、病や介護に悩む人―。さまざまな老若男女と出会った。

共感に救われる

 中でも印象的な人がいる。5年前に来た介護士の30代男性。職業を聞き「死にゆく者の礼儀」(遙洋子著)を勧めた。著者の壮絶な母親の介護、普段の何げないやりとりを記した本だった。男性は寄贈メッセージを読むなり、涙をこぼした。

 「できることだけしよう。自分を責めないようにしよう。読み終わったら無理をしない自分に少しはなれる」

 男性は会社を辞めて母親の介護に専念し最期をみとったこと、「もっとああしていれば」と後悔し、介護士になったことを話し始めた。本を読み「これでよかったんだ。自分だけじゃなかった」とまた泣いた。男性はその後も図書館に通ってくれた。

アナログの絆

 田中さんは「本は中の世界に入れて自分の世界も広がる。おもちゃ箱みたい」と語る。

 開館当時は電子書籍が注目を浴びており、友人からも反対された。「足を運んで本を読むアナログさを残したいから」と図書館にこだわった。その訳は「本好き」だけではない。

 10歳の時に2歳半の弟を交通事故で亡くし、命について考えてきた。当時もいじめによる子どもの自殺が相次いでいた。「心が痛かった。命を大切にしてほしいけれど、自分には救える力がない。ならば」と本でつながるフリースペースを思い付いた。

 「ここは普通の図書館とは少し違う。偶然手に取った本が光を照らしたり、つじつまを合わせたり、前を向くきっかけをくれたらすてき。心の荷物を下ろすひと休みの場になればいいと思う。本があなたを待っています」と歓迎している。図書館は入館無料。閲覧のみ。


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