週刊大阪日日新聞

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2018 新春号

大阪発 ザ・論点 

日本が築いた物、見失うな


吉岡 利固

 年の初めにあたり、読者の皆さまに謹んで新年のお祝いを申し上げます。ご家族のご健勝と地域のますますの繁栄をお祈り申し上げます。

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 2017年に印象に残ったニュースは、総選挙勝利ですっかり自信を付けた安倍総理が推し進める「憲法改定」論議の本格化と、若者と女性への目先の受けを狙った「働き方改革」だ。

 日本の敗戦を受けた昭和憲法を変えようとする改定議論は、安倍総理の就任以来の悲願だ。彼にとっては祖父岸信介が果たせなかった夢の達成でもある。改定を正当化する人々は、北朝鮮の核実験とミサイル発射、中国の尖閣諸島介入や南シナ海への軍事基地進出、韓国との竹島帰属問題など、緊迫した外交上の諸問題を掲げては必要性を訴えている。

 つまりは米国を中心とした集団的自衛権行使を、同盟関係にある他国と同じようにできないと「安全保障上、日本の正当な立場を主張できない」という論法だ。確かに、小国も軍事力を保持する現在の国際関係において、一見正論のようにも映る。

 しかし、日本は国防に関して専守防衛、つまり軍隊ではなく自衛隊を組織している極めて特殊な国だ。私は「わざわざ普通の国と同じようになる必要はない」と声を大にして言いたい。なぜなら日本は「戦争放棄」を明記した平和憲法を持つ唯一といってよい国家だからだ。他国を攻撃するための軍備を持たず、自ら交戦しない国だということを世界中が認めている。その証拠に、訪日客が増えているが、ISなどイスラム過激派によるテロは起きていない。日本は防衛体制が薄いにもかかわらずだ。例えば、JR新幹線などは乗車時の持ち物検査もなく、やろうと思えば誰でも爆弾を持ち込める状況にある。だが、不安を抱く乗客はいない。

 テロを起こす犯罪者は、自身および世界が納得する「大義」を重んじる。すなわち、イスラム社会などへの弾圧や差別が明確な形で必要だ。彼らですら「日本でテロを起こしても意味がない」と十分認識している。

敗戦で得た特権

 先の太平洋戦争で、日本は多大な犠牲を払い敗戦の屈辱を味わった。われわれ戦争体験世代は、その思いを肌で知っている。しかし、戦争を知らない世代がどんどん増え、次第に意識が希薄になっているのは心配だ。

 二度の被爆体験を含め「もう二度と戦争をしてはならない」という日本人の強い平和への思いは、世界中に浸透している。どんな国も軍備を持つのは「常識」だが、日本だけは「仕方がない」と世界が納得してくれている。まさに日本のみが持つありがたい特権だ。安倍政権が考える憲法改定は、敗戦によって得た平和憲法の持つ特権を自ら捨て去る行為にほかならない。

 そもそも日本の経済的繁栄は現行憲法によってもたらされた。太平洋戦争で、アジアの小国日本に苦しめられた米国は、「日本に二度と戦争を起こさせてはならない」と平和憲法を作り与えた。軍備を持たせない代わりに「日本は米国が守りますよ」という条件の日米安保が結ばれた。そのおかげで、軍備に充てるべきお金と人材をすべて経済に回すことができ、高度経済成長を成し遂げて先進国に仲間入りした。つまり、現行憲法のおかげで今日の繁栄が築けたのだ。その意義をもう一度思い起こしてほしい。

「お金がないのに遊べ」の働き方改革

 印象に残ったもう一つのニュースは、電通の新入女性社員の過労死自殺を機に、急速に話題になってきた「働き方改革」だ。時間外労働を減らし、休みをきちんと取ることでワークライフバランスを整えるのが趣旨というが、実際の中身は「休みは増えるけどその分、収入は減る」という内容だ。「お金がないのに遊べ」という矛盾した政策を、国が率先してやっても実態は伴わない。「働かず休め」というだけでは説得力はない。休みを十分満喫できる賃上げと、女性の育児や介護にかかる時間と費用の負担を軽減しないと実態は付いてこない。小手先だけの政府と官僚の推し進めるダメ政策≠ノ気付かないほど国民は思考停止に陥っている。

 私は数年前、何も考えずに長いものに巻かれることに対する「1億総バカ時代」という『論点』を紙面に書き警鐘を鳴らしたが、国民はますます考える努力を失っている。この上「軍備を持つことを容認する」という世論が半数を超えたら、いよいよ「日本の将来危機」の本格到来である。

 (週刊大阪日日新聞社 社主)


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