週刊大阪日日新聞

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2017/10/14

2017 衆議院議員総選挙 問われる「国のかたち」
大阪の課題と今

 10月22日投開票の衆議院選挙は最大野党・民進党の事実上の解党と希望の党、立憲民主党という新党≠フ誕生もあって、「政権選択選挙」とする声が盛んだ。
 では有権者は「国のかたち」をどうするかを判断基準に投票すれば、事足りるのかといえば、そうではないだろう。選挙の争点は、憲法9条改正問題だけでなく、アベノミクスの評価、消費税率引き上げを財源とする使い道など、市民の暮らしに直結する課題も少なくない。そんな課題の大阪での現状を見て歩いた。(衆院選取材班)


教育無償化

子育て世代の助けに

待機児童は解消されず

▲幼児期の教育、保育環境はどう変わるのか。注目が集まる(写真は本文の内容と関係ありません)

 衆院解散の理由の一つに消費税率引き上げ後の使途変更が取り上げられ、教育無償化がクローズアップされている。大阪では、政令市で幼児教育の無償化が段階的に進み、保育も含めた無償化を始めた自治体もある。子育て世代の家計の助けになると歓迎する一方、政策の優先順位を疑問視する声も上がる。

■効果は「不明」

 大阪市は2016年度、「全ての子どもたちが質の高い教育を受けられる環境づくり」の一環で、政令市では全国で初めて幼児教育の無償化を導入した。現在4、5歳児の4万人強が対象で予算は約55億円に上る。最終的には3歳児までを目指す。

 5歳の長男と2歳の長女を育てる会社員の女性(43)=同市中央区=は、一駅離れた保育所に通わせている長女を、来春から自宅近くの私立幼稚園に通わせる予定。「無償化がなかったら切り替えは考えなかった」と話す。

 無償化が、保護者に新たな選択を促した形だが、全ての子どもたちの環境づくりと、どう結び付いているかは不透明だ。

 対象年齢のうち、保育所や幼稚園に通っていない幼児の割合は、制度の導入前後で大きく変わらず約5%で推移し、通わせる動機付けになっていない。前述の女性は「長男の無償化された分は、生活費に回っていると思う」と苦笑する。

 市担当者は「未来への投資が狙い。すぐに何らかの効果が出ているかは分からない」と説明。効果を検証する予定もないという。

■待機児童解消が先

 守口市は17年度から幼児教育・保育の無償化を実施。0〜5歳児約4600人を対象に、公立保育所の民営化で生まれた6億7500万円を充てた。

 保育所や認定こども園の本年度の利用申込数は、前年度比40%増の1052人。市は無償化が要因の一つとみる。

 就労意欲を刺激し、転入の動機付けになったケースもあり、1970年をピークに減り続けてきた人口は本年度に入って微増傾向。少子高齢化対策にもつながっているが、保育所の待機児童問題は解消されていない。

 受け入れ枠の十分な確保策が改めて課題として浮上し、市担当者は「このままだと人口はまた減り続ける。何とか流れを止めたい」と対策を講じていく構えだ。

 幼児教育に詳しい大阪教育大の戸田有一教授は「世の中の関心や期待は、幼児教育無償化よりも、待機児童の解消にあるのではないか」と指摘。「無償化の先行的な実施の検証結果を、大阪から発信するべきだ」と提案している。


経済対策

景気回復の恩恵なく

中小は深刻な人手不足

▲視察プレスツアーで訪ねた町工場。中小企業の中には景気上向きの実感を十分に得られていない状況も多い

 アベノミクスは「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「成長戦略」の3本の矢による景気浮揚策。「経済の好循環」を目指し、企業収益は向上しつつあるものの、賃金にはなかなか反映されていない。

 今月発表された近畿6府県の日銀短観では、企業の景況感を示す業況判断指数(DI)は大企業・製造業で620となったが、中小企業はプラス7で1ポイント上昇にとどまている。

■恩恵は及ばず

 9月下旬、日銀の黒田東彦総裁は大阪市内で関西の経済団体トップらと懇談した。「近畿地方の企業の業況感も昨年後半以降、海外経済が明確に回復するもとで、急速に改善している」と説いた。

 これに対し、大阪商工会議所の尾崎裕会頭は「若手従業員が集まらず、相当の需要をとりこぼしている」(鉄骨・鉄筋工事業)、「募集しても広告費ばかりかかり、人が集まらない」(警備事業)といった深刻な人手不足に陥っている中小企業経営者の声を紹介。

 丸十服装(大阪市大正区)の西川典男会長も「景気回復の恩恵は、ものづくり中小企業に及んでおらず、価格競争や経営者の高齢化など、厳しい経営環境が続いている」と訴えた。

 懇談後に黒田総裁は「労働市場が非常にタイト。労働生産性の向上が必要になるが、簡単ではない。(中小企業も)景気は良くなっているが、人手不足が広がっている。労働集約的な事業の中小企業は、人手不足の対応に難しさを感じているのでは」と見解の相違を示した。

■明暗分かれる

 中小企業診断士の永井俊二・大永コンサルティング(大阪府松原市)代表は、大阪の中小企業について「全般的に厳しい。従来型の内需頼りの業界では、売り上げが減少している。アパレルは品質や価格、品ぞろえなど何か特徴がないと厳しい。インバウンド(訪日外国人客)を取り込んだホテル、外食、物販では客増加の恩恵を受けている」と分析する。

 業種によって明暗が分かれる中小企業。大阪府中小企業家同友会の堂上勝己代表は「(会員企業の)業績は良くなっているが、アベノミクスの恩恵というより個々の企業の努力。目先のことではなく国家ビジョンの中に、中小企業を位置付けてほしい」と国の中小企業に対するスタンスを問う。


福祉対策

高齢化率 右肩上がり

予防や介護に高い関心


▲高齢化の進む日本で、いかに健康に年を重ねるか。国民の関心が高まっている(本文とは関係ありません)

 少子高齢化が進む中、政府は社会保障をこれまでの高齢者中心から全世代型に見直す方針を示す。全国傾向と同じく、高齢化率(65歳以上が総人口に占める割合)が右肩上がりの大阪市でも、健康や介護に対する市民の関心は高く、地域の実情に合わせた各区の取り組みが進んでいる。

■関心高い認知症予防

 「国のことは分からんし、自分で気を付けなあかんわ」―。9月、同市旭区の区民センターで開かれた認知症の予防講座で、60代の参加女性は苦笑いしながらこう話した。同区は高齢化率が市平均を大きく上回る29・4%(2015年10月1日時点、国勢調査)で、市内で3番目に高い。認知症には関心も高く、平日昼過ぎの会場はほぼ満席になった。

 「大阪市高齢者保健福祉計画・介護保険事業計画(2015〜17年度)」によると、2010年に22・7%だった市内の高齢化率は、20年に26・7%、25年には27・0%になると予測。15〜20年には後期高齢者数(75歳以上)が前期高齢者数(65〜74歳)を上回る。

 こうした実情に対し、重点的な取り組みとして位置付けるのが、自立した生活を促す「介護予防」の充実や、住み慣れた地域で自分らしい生活を最期まで送れる「地域包括ケアシステム」の推進体制の構築だ。

■自宅訪問型診査

 同市旭区は、要介護3以上で寝たきりの高齢者を対象に歯科健康診査事業を10月から始めた。医療機関に通院して受診する後期高齢者医療歯科健康診査があったが、医師による自宅訪問型は市内で初めて。

 区内では要介護3以上の65歳以上が約2200人おり、そのうち約200人が対象となる見込み。区歯科医師会はボランティアで、本人負担は無料だ。

 区保健・子育て支援担当課の近藤義彦課長は「寝たきりの高齢者にこそ診査の必要性が高く、その隙間をどう埋めるか課題だった。意識の高い旭区歯科医師会の働き掛けで実現できた」と説明する。

 「区が独自に取り組んでくれているのは安心感がある」と評価するのは、区内で空手道場を開く南勝也さん(74)。自身のことよりも今気がかりなのは「道場のかわいい子どもたち」のこと。「政治家には少子化に対応した政治をやってほしい」と願っていた。


子どもの貧困対策

多面的な対策が必要

「社会孤立」防げるか

▲子どもの貧困対策事業のキックオフイベントで、「子どもたちのために頑張ろう」と気勢を上げる関係者ら

 いじめや不登校の増加、子育て不安に起因する児童虐待、貧困の世代間連鎖―。全国的に少子高齢化に拍車が掛かり、子どもと親を取り巻く環境が複雑化している。これまで国の対策は効果を生んできたのだろうか。教育や就労支援、給付の在り方など、さらに多面的な政策が求められる。

 厚生労働省が2016年に発表した「国民生活基礎調査」によると、平均的所得の半分以下の世帯で生活する18歳未満の割合を示す「子どもの貧困率」は、およそ7人に1人に相当する13・9%だった。

 過去最悪だった前回調査(13年)から2・4ポイントしたものの、先進国では依然高く、深刻さは変わらない。国は雇用環境が上向いたことや賃金上昇を改善要因に上げるが、長期的な解決策としては課題が残る。

■貧困の連鎖

 経済的な理由から、保護者が「医療機関を受診させられなかった」(1・3%)▽「学習塾に通わせられなかった」(11・9%)▽「食費を切り詰めた」(4割以上)。

 大阪市が昨年、市内の小中学生と保護者の約5万6千世帯を対象にした調査で、こんな結果をまとめた。困窮度が高い子どもほど、学習や健康面で影響を受ける割合が高いことを示している。

 困窮世帯のうち、顕著なのが母子家庭や非正規雇用で働く人の世帯だ。子どもは高等教育が受けられず、さらに格差が広がれば貧困の連鎖を生む懸念がある。

■行き届く支援を

 調査を手掛けた大阪府立大の山野則子教授(子ども家庭福祉)は、世帯の社会的孤立などを背景に「子どもの貧困は見えにくい」と問題提起する。山野教授は9月下旬、門真市で講演した。

 府が実施した同様の調査で、全体の平均値を下回る結果が出た同市は、人口の約0・5%に当たる市民計600人態勢で、子どもを見守る新事業を発足させた。府のモデル事業として取り組み、自治体による先例を示した形だ。

 地域で見守る態勢を構築することで、子育て家庭を社会的に孤立させないのが狙い。大阪市内で地域ぐるみの子育て支援を続ける団体代表の徳谷章子さん(62)は「親の孤立は、子どもの孤立につながる」と指摘する。

 全国各地では、子育てや放課後学習支援、地域食堂の運営などを通じて、ボランティアの活動が子どもたちを支えている。景気の浮き沈みに左右されず、広く行き届く支援が求められる。


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