週刊大阪日日新聞

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2019/11/23

「早く帰ってもらう」経営方針で売上4倍に

北新地ぎょうざ家

 大阪市北区曽根崎新地。オープンからわずか半年で経営に行き詰まったイタリア料理店が、餃子屋に業態変更するやいなや、一気に人気店にまで上り詰めた。同じ場所の同じ店舗でである。


▲北新地ぎょうざ家(大阪市北区曽根崎新地1─5─7 森ビル1階)の安在さん

 「おいしい料理と酒を提供すれば、お客さんはやって来るはず」─。

 大森達哉さんと安在貴之さんの若い2人が勢いではじめたイタリア料理店。思いとは裏腹に客足は伸びず、数カ月で資金繰りに行き詰まった。2人はわらをもすがる思いで、飲食経営に定評のあるコンサルタントに相談を持ちかけた。

 「カウンター9席の店で最大利益を生むには、回転率を極限まで上げるしかない」(同コンサルタント)。

 結論は、これまで取り組んでいたイタリアンのコース料理をあきらめ、 餃子オンリーで勝負する店≠ノ作り替えることだった。

 この思いがけない提案に、2人は大きく戸惑ってしまう。しかし、資金繰りの面からもはや迷っている時間はなかった。


▲「餃子の見た目が美しい」と女性客に評判

滞在時間45分の物語

 餃子屋に業態変更し、回転率を最大化させる作戦はこうだ。客の滞在時間は45分、客単価は2000円で想定。そのくらいでちょうど帰りたくなるストーリー≠作り上げた。

 まず、入店した客は、看板メニューの餃子とビールを注文。餃子が焼き上がるまでの約7分の待ち時間に、さっと出てくるローストポークをつまむ。そして、ほどよく飲んだところで熱々の餃子が目の前に出される。6個すべてを食べ終わる前にビールが底をつき、2杯目を注文。残った餃子をたいらげると、餃子を追加するか、店を出るかの選択になる。

 その流れが平均で45分というわけだ。客はこの同じストーリーを楽しもうと「また餃子を食べに行きたい」となるという。

ブレない経営

 業績を上げる回転率の最大化=Bこの目的のために用意されたメニューは、ドリンクは炭酸だけ、料理は7品のみだった。

 メニューを限定するのは、とても勇気がいることだ。ほとんどの飲食店経営者は、品数を増やしたり変えたりしないと不安になったり、お客さんから「増やしてよ」と要望をもらうとついつい聞いてしまったりするものだ。

 ぎょうざ家も例外ではなく、顧客から「ワインをボトルで入れてよ」と言われ、要望通りにしたことがあった。確かに一時的には売上は伸びたが、客が長居するようになってしまった。

 2人はこの失敗から学習。ブレずにシンプルにおいしい餃子を作る努力だけに打ち込み、きれいに掃除された店で客を迎え続けた。

 それから半年。売上は当初の4倍近く、稼働率も70〜80%まで伸びてきた。「早く帰ってもらう」経営方針は、「手軽にさくっと飲める店」と印象付き、とりわけ若い女性が二人で訪れ、美しい餃子の写真を取って帰ることが多いという。

 「何もわからず飲食店を始めたころよりも、安心感がある」と安在さん。「食材は豚肉が中心で、仕入れ先を絞れる分、安定供給が見込めるし、経営を数字でとらえるようになってからは慌てたり、不安になることが少なくなった。その分、次は何をやろうかと考える余裕もできた」(安在さん)。


記者の視点

 取材をしていると、「飲食が好きだから、店をはじめた」という経営者の声を本当によく耳にする。だからこそ、ぎょうざ家の決断がいかに勇気のいるものかがわかるのではないだろうか。しかし、客の要望を聞き過ぎ、「一体、何の店なのか」と消費者に非常にわかりにくくなっているケースも多々ある。そういう店は特徴を失 い、宣伝も難しい(消費者に刺さらない)。

 経営戦略とは、やること、やらないことを決めることにある。ぎょうざ家が「いろんなメニューを出したい」という気持ちに惑わされず、ブレない経営を続けられるのは、長い目で経営を捉えられるようになったからではないだろうか。


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