週刊大阪日日新聞

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2019/11/9

維新はなぜ大阪で強いのか?

大阪日日新聞編集局長・記者 相沢冬樹

大阪発 ザ・論点

 お笑い100万票に代表される無党派層の支持を得て、8年前の大阪府議選・市議選(大阪春の陣)で勝利を収めた大阪維新の会。創立者の橋下徹はその秋に大阪府知事を辞職し、府知事・市長のダブル選挙(大阪秋の陣)を仕掛けて圧勝した。以後、選挙によって多少の浮き沈みはあるものの、今に至るまで維新旋風が大阪で吹き荒れている。

B本物になった強さの背景

 民主党(当時)の強さは1回しかもたなかった。維新はダブル選で3回連続で圧勝。大阪府政・市政を掌握し続けている。なぜ維新の強さは本物になったのだろうか。

強固な支持層に変質

 鍵は維新の成り立ちにある。維新は2009年、現大阪市長の松井一郎ら大阪府議会自民党府議団にいた6人から始まった。府知事の橋下が提案した府庁のWTC移転案を巡る考えの違いから、6人は自民党会派を離脱し新会派を結成。それが「自由民主党・維新の会」だ。

 その後、新会派に参入する議員が相次ぎ、10年に大阪維新の会が結成された。その多くが元は自民党の府議だった。そして翌年の大阪府議・市議選大勝利へとつながる。

 自民党など保守の地方議員というのは足腰が強い。地盤・看板がしっかりしていて、後援会組織をきちんと整え、どぶ板選挙で選挙区をくまなく回り有権者とつながりを持つ。そして地方議員は国政選挙でも最前線に立って票を集める。全国どこでも、足腰の強い地方議員に支えられて自民党の国会議員は勝ち上がる。

 そんな頼りになる自民党の地方議員たちが、大阪ではごっそり維新に移ってしまったのである。維新は橋下人気で浮動票をさらうだけではなく、保守議員の足腰の強さで固定票をも集める。そんな選挙を繰り返すうちに、当初は「浮動票」として維新についた「お笑い100万票」は、もはや「維新の強固な支持層」に変質したと見た方がいいだろう。

地方選で足場固め

 維新がまず地方選挙(大阪府議選・市議選)で大勝したのも大きい。民主党と比べると違いが際立つ。民主党はいきなり国政選挙で大勝してしまった。無党派の風が吹いたからだが、足腰にあたる地方議員が脆弱(ぜいじゃく)なままで、最後までその壁を越えられずに失墜した。

 一方、維新はまず地方選挙で足腰を固めた上で国政に挑み勝利した。そして無党派層を自分たちの支持層に変えた。これで強くならないはずがない。維新は大阪で盤石の体制を築いた。

 だが同時に、維新がなぜ他の地域でさほど強くないのかも見えてくる。それは安倍政権の強さと裏腹の関係にある。


C他地域に強固な地盤なし

 維新の強さの本質は風ではない。橋下徹という希代のタレント政治家の姿に惑わされがちだが、本質は保守系地方議員が積み重ねてきた足腰の強さにある。その足腰の強さで、橋下が集めた浮動票を固定票に変化させた。これこそ維新の強さだ、というのが前回の論旨だ。だから橋下がいなくなっても維新の強さは変わらないのだ。

少ない地方議員

 では、維新が大阪で圧倒的な強さを誇る一方、他の地域でそれほどの強さを発揮できないのはなぜだろう? それは強さの理由を考えれば分かる。大阪でこそ府議市議らの力を生かせるが、他の地域では維新の地方議員はそれほどいない。だから足腰の強さがない。維新は風に乗る党ではなく固い地盤に乗る党なのだ。

 では、他の地域で圧倒的な数の地方議員を擁し固い地盤を築いているのは?

 それは自民党だ。だから自民は全国で強い。 そう、大阪では維新が自民=Aそして大阪の自民は野党なのだ。その証拠に安倍官邸は維新を大切にするけれど、大阪の自民党にはつれない。大阪の自民党の人たちは官邸の冷たさを嘆く。気持ちは分からないでもないが、こういう構図を変えない限りどうしようもない。

強さの源泉手中に

 私はNHKで記者をしていた去年までの31年間、山口、兵庫、東京、徳島、大阪と各地で選挙取材をしてきた。選挙取材は地べたを這(は)う取材。NHKで担当するのは政治部ではなく社会部と地方局だ。その経験から自民党の強さを骨身に染みて知っている。

 本当の意味で自民党が総選挙に負けたのは、2009年の政権交代選挙の時だけだ。1993年の総選挙でも政権交代があったが、あれは自民党を割って出た小沢一郎らが新生党を結党して非自民8党派の連立を実現したからで、選挙に勝ったというより政局に勝ったのだ。選挙結果を見れば、自民はさほど議席を減らしていない。

 自民の地盤の固さ、地方議員の底力、どぶ板選挙の凄(すご)み。これら強さの源泉を維新は大阪に限ってすべてわが物にした。だから大阪で強い。風だけでは継続して選挙に勝てない。それは民主党が実証した。自民と維新は、どぶ板選挙で地盤を固めるから継続して勝てる。ごく当たり前のことだ。

 ここまで来ると次の疑問が湧いてくるだろう。そんな維新、そんな安倍自民党に勝つ方法はあるのか。野党はなぜ勝てないのか。「打つ手はない」と諦めるしかないのか?…そんなことはない。この世に絶対無敵≠ネものなどない。


D政治には夢≠ェ必要だ

 維新の強さは地方議員の固い地盤にあると前回書いたが、それだけではない。維新が変革の旗手≠ニいうイメージを定着させたことも見逃せない。維新の創設者、橋下徹は大阪都構想を掲げ、反対者を抵抗勢力とイメージづけることに成功した。「大阪の成長を止めるな」という維新のスローガンは「変革の旗手である維新が負けると、大阪の成長が止まってしまう」というイメージ戦略にほかならない。その戦略が成功したから維新は勝つ。言い方を変えると、維新は大阪の人々に夢≠見せることに成功したのだ。

 政治には夢が必要だ。この国、この社会、私たちの暮らしは、今よりも良くなる、という夢。都構想という夢≠ェ実現すれば、大阪は輝きを取り戻すと信じるからこそ、大阪の人々は維新に投票する。

 これを全国規模で行っているのが安倍政権だ。それは「景気回復、この道しかない。」というスローガンによく表れている。アベノミクスを推 し進めれば景気は回復するという 夢≠信じて、人々は自民党に投票する。「ほかに選択肢がない」と信じているのである。安倍政権も維新も人々に夢≠見せている。

感情が先、理屈後回し

 野党が弱いのもここに理由がある。野党は安倍政権を、維新を批判する。アベノミクスを、大阪都構想を批判する。だがその批判が理論上は正しいとしても、有権者の心に響かなければ選挙には勝てない。橋下徹の著書に次の一節がある。

 《民主国家における選挙は有権者の判断がすべてだけど、有権者の判断要素として、「感情」の占める割合が高いのは否定できない現実だ。こう言うと、自称インテリたちは「感情的な判断はダメだ。理性を持って判断しろ」とか偉そうなことを言うだろうね。でも人間なんてしょせん、感情の動物だ。感情があるからこそ人間的な生き方ができる》

 私は橋下のこの考えに全面的に賛同する(政策や政治手法への賛同ではない)。人は感情で動く。理性や理屈では動かない。感情に訴えかけて共感を得られたら初めて理屈を聞いてもらえる。感情が先、理屈は後回しだ。それが分かっているから橋下と維新は強い。それが分からないから野党は弱い。

 野党は批判ばかりと見える。でも維新や安倍政権の支持者にとって批判は「私の好きな人の悪口を言っている」と受け止められる。そんな人の言うことに聞く耳は持たない。「また野党が批判してる」と冷たくあしらわれるだけだ。

 「都構想をストップ 維新政治を転換しよう」というスローガンがある。なるほど。では都構想をストップし維新政治を終わらせて、その先どうするのか。それが見えない。人々は現状を変えたいと望んでいるのに、野党には夢が感じられない。だから「やっぱり維新しかない」「安倍政権しかない」となる。野党自体が人々を維新や安倍政権の側に追いやっているとも言える。今の野党で人々に夢を語っていると言えるのは、山本太郎くらいではなかろうか。

実現できる夢を

 こう考えると、維新及び安倍政権に勝つ方法が見えてきた。それはズバリ「維新や安倍政権より大きな夢を見せる」こと。その夢を信じてもらえるよう説得材料を整えることだ。そして夢には愛が欠かせない。この場合の愛とは、この国に暮らすすべての人々を愛し、みんなが幸せに暮らせる社会を目指すこと。それを実現できる夢でなくては意味がない。

 とはいえ、言うは易(やす)く行うは難し。そんなことできるのか。維新より大きな夢?

 そんな夢どこにあるんだ?と感じる人も多いだろう。ごもっとも。そこで次回は私が考える夢について論考したい。夢はでっかい方がいい。大風呂敷を広げよう。

(文中敬称略、次回からタイトルを改めて「維新より大きな夢」について論考する)


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