週刊大阪日日新聞

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2019/10/12

ミスコン世界大会に挑戦 亡き父に贈る


▲ミス・グレイト日本代表の小牧葵

 9月16日、大阪・北新地のホテルで開催された「ミス・グレイト世界大会」は、日本人が一から企画した初めての世界規模のミスコン。日本代表の小牧葵(22)は、4歳から空手に打ち込み、世界大会にも出場した有段者だ。最愛の父を去年がんで亡くし、「自信を持て」と言い続けた父親に届けようと、父の日に開かれた別のミスコンの日本大会に挑戦。いったんは本選に敗れたと思いきや、同時に選考されたミス・グレイト・ジャパンに見事選ばれるという逆転劇を演じた。世界大会で彼女が演じたドラマをお届けする。(大阪日日新聞編集局長・記者 相沢冬樹)

これはミスコン=ミスコンテストを舞台にした1人の女性の成長の物語である。(文中敬称略)

「移動の車で女子トーク」

《世界遺産で国際親善》

 世界遺産に登録された世界一大きな墓。堺市の仁徳天皇陵(大仙古墳)。ここに世界18カ国から集まったミス・グレイトのファイナリスト(最終選考出場者)たちが訪れ、浴衣や着物姿の人たちの歓迎を受けた。世界大会を前に来日した彼女たちは関西各地で地元の人々と交流し、さまざまな日本文化を体験する。それをそれぞれの母国で伝える役割を期待されているのだ。

 小牧葵に英語で話し掛ける着物姿の女性。「私、日本人ですよ」と答える葵。「私、ぱっと見て日本人と思われないことが多いんですよね。純粋な日本人ですけど」

 日本代表と分かると周りに人垣ができる。

 「世界大会頑張って」

 「ありがとうございます」

 「やっぱりこのくらいのバランス(体形のこと)じゃないとねえ」

 やはりご当地のミス・ジャパンは人気者。でもほかの国の代表もそれぞれ大勢の人に囲まれている。

 記念撮影を求められたミス・コリアのグレイスは「I love Japan!」。それに答える着物女性「カムサハムニダ」。その場で国際親善だ。ミス・チャイナのシャーリーは流暢な日本語で質問に答える。彼女は大学で日本語を学んだからだ。

《世界の美女たちに「イッキ」が広まったワケ》

 交流の場ではきちんと振る舞う彼女たちも、移動の車の中ではぐっとくだけて女子トークを炸裂させる。葵と同じ車に乗り合わせたのは、ミス・USAのリーヴァとミス・チェコのニッキー。初対面の2人に挟まれた葵。「幸せやな〜、こりゃ。両手に華やな」…いや、あなたも華でしょう。

 でも葵は構わず2人に「I,m so happy,because you are beautiful.OK,Come on!」。2人を引き寄せてスリーショットに収まる。「OK,Good!」。3人は一気に仲良しに。車内はずっと笑い声が絶えない。


日本らしいことを通訳


▲ミス・USA(左端)が茶の湯で「ノーノーイッキ!」

 兵庫県西宮市生まれの小牧葵は、車に乗り合わせた2人に関西弁を教えてあげたという。いったい何を教えたの?

 「『なんでやねん』と『知らんけど』」…それこそ、なんでやねん!

 ミス・USAのリーヴァは地元でDJをしているとか。とにかくノリが良く、すぐに踊り出す。日本語を少ししゃべれるので、日本人とみると知る限りの日本語で話し掛けてくるサービス精神も見せる。

 一方、ミス・チェコのニッキーが知っている日本語は「乾杯」と「イッキ」。なぜよりによってその二つの言葉を?

 実はおじいさんが10年間日本で暮らしていたことがあり、この言葉を教えてくれたそうだ。これに食いついたのがノリのいいミス・USA。こうしてファイナリストたちの間に「イッキ」が広まってしまったのだそうだ。やめときって。

 堺といえば千利休。一行は茶の湯も体験した。お茶は何度かに分けて少しずつ飲むんですよと教えるお師匠さん。その言葉を周囲のファイナリストに通訳する葵。それを聞いたミス・USA「ノーノーイッキ!」。その通りだけど、ここでもイッキを持ち出すか!

《世界各国から来たファイナリストたちへの気遣い》

 その夜は大阪の中心部、中之島に面したイベント会場でチャリティー・パーティーだ。ここでも日本の伝統芸能の紹介があった。こんな時、葵は周囲のファイナリストたちに日本語の説明を通訳する。

 「日本らしいことを伝えるようにしています。いろんな人の隣に行ってトランスレイト(通訳)してあげるんです。興味を持ってもらおうと思って。逆に宗教の関係で食べられないものがある子のことは、お店に伝えるようにしています」

 伝統芸能の一つとして大和舞の演舞が始まった。その時、葵は、ファイナリストで最年少のミス・ネパール、アーリャのすぐ脇に立ってそっと腰に手を回した。

 「あれは、あの子が舞いを見て『怖い』と言ってたから、腰に手をあててなぐさめていたんです。でも、ほかの子もみんな怖がっていましたよ」

 確かに、背景を何も知らずに舞いを見せられたら、異文化の人たちにとっては怖いと感じられたのかもしれない。

《世界大会はお父さんの一周忌》

 そして迎えた9月16日、世界大会本選の日。実はこの日は、1年前に葵の最愛のお父さんががんで亡くなった一周忌の日なのだ。

 「私がお父さんの痛み止めの薬を管理していたので、薬の時間になって部屋に行ったら、もう冷たくなっていたんです」

 「この1年間、海外留学にも行ったし、ミスコンにも出たし、新しいことに挑戦してきました。下を向いている暇はなかった。自分がやることを探して1年過ごしてきました。家族がみんな、このミスコンで前向きになれてよかったと思います」


民族衣装でお国柄表現

《「てっぺんから見下ろしてくるわ」》


▲和服をイメージした衣裳でランウェイを歩む葵

 小牧葵のこの世界大会にかける思いは?

 「私は空手の世界大会には出たけれど、国内大会は2位通過とかで、1位になったことがないんです。1位を初めて取りたいなあ。けさも海外留学中の妹とLINEでやりとりしたんですけど、『てっぺんから見下ろしてくるわ』と強気なことを言っときました」

 ホテルの部屋では毎晩、ウオーキングやダンスの練習をしてきた。仲良しになったミス・チェコのニッキーとは、前の夜、部屋で応援し合ったそうだ。

 「『あなたが優勝すると思うわ』と言うから、2人で号泣しちゃいました」

《空手着で気迫のこもった演武》

 華やかな会場にアバのダンシング・クイーンが響き渡る。70年代のディスコチューン。歌詞に歌われたダンシング・クイーンは「ヤング・アンド・スイート、オンリー・セブンティーン」だった。ランウェイを進む彼女らは、最も若いミス・ネパールのアーリャがハイティーン、ミス・ジャパンの葵は22歳。まさにダンシング・クイーン≠セ。

 大会でファイナリストたちは次々に衣装を替える。この時はナショナルコステューム(民族衣装)を身に付けての登場だった。ミス・ジャパンは着物をアレンジした衣装。ミス・コリアのグレイスはチョゴリ。ミス・フィリピンのアップルは海をモチーフに、魚やヒトデなどが描かれた青いスカート。それぞれお国柄が表れている。

 興味深かったのはミス・USAのリーヴァ。頭に金髪のカツラ、赤いネクタイ、スーツのジャケット、ということは…そう、ドナルド・トランプ大統領だ。米国は特定の民族衣装がない。だから世界一有名な大統領に扮したわけだ。主催者代表の上山真利愛(24)は「ちょっと、どうかな?」と言ったそうだが、本人の強い意向で決まったとか。別にトランプ大統領を支持するという意味ではないと思うが。

《ランウェイのダンシング・クイーン≠スち》

 今回のコンテストでは、出場者のうち3人が特技を披露するステージもあった。ここで登場した葵は、華やかなドレスからうって変わって、凜とした黒帯の空手着姿だ。

 ステージ上で正座し深々とお辞儀をした葵。すっと立ち上がると裂帛の気合を込めて演武を始めた。顔つきも笑顔は潜め、気迫のこもった表情だ。2分ほどの演武を終えると、再びにっこり笑顔を見せてお辞儀し、拍手の中、舞台を去っていった。

 主催者代表の真利愛いわく「鳥肌が立つような覇気があった。すごいパフォーマンスだった」


亡き父との約束を守る

《お父さんも写真の中から応援》


▲裂帛(れっぱく)の気合いで突きを繰り出す

 続く水着審査では2人一組になってランウェイを歩む。小牧葵はミス・インドのミナズとペアで登場。よく8頭身美人と言うが、葵はそれを上回る9頭身、抜群のプロポーションでポーズを決めた。

 客席には、葵のお母さんやおばあさん、友達、お父さんの友人、そして留学中に知り合った彼氏も駆け付けている。大応援団だ。葵が登場するたびにやんやの喝采。「あ」「お」「い」の文字入りのうちわも用意した。

 そしてお父さんも、お母さんが手にした写真の中から娘を見守っている。スポーツマンでサーフィンが好きだったというお父さん。お気に入りのサーフボードが写っている写真を遺影にも使ったそうだ。

 大会の冒頭では、ファイナリストたちが子どもたちと手をつないで登場するシーンがあった。葵は「自信を持て」と言い続けてくれたお父さんの前で、満面の笑みを浮かべて客席に手を振り、最後は余裕の投げキッスを送った。

《ただ1人のショートカット》

 そしてドレス審査。勢ぞろいしたファイナリストたちのほとんどの出場者がロングヘアーだが、葵だけがショートカットだ。

 「私はいつもこう(ショート)ですから。空手をやってたし、この方が動きやすいんです。ミスコンの出場者はほとんどロングらしいけど、私は気にしません」

《緊張の中間結果発表》

 さあ、いよいよ中間結果の発表だ。ここで18人の出場者から8人が選ばれて最終審査に進む。舞台が暗転し、1人ずつ通過者が読み上げられる。緊張の瞬間。「ミス・ラトビア!」「ミス・ウガンダ!」そのたびに拍手を送る葵。しかし彼女はいつまでも呼ばれない。ダメだったのか?

 7人の発表が終わって、あと1人。ここで司会者はためを作った。「ミス……ジャパン!」。会場から大きな拍手が沸き、葵は先に選ばれていた仲良しのミス・チェコ、ニッキーと抱き合って喜びを分かち合った。

《予定になかった父の話をスピーチで》

 中間発表で選ばれた8人は、最終審査、英語でのスピーチに臨む。スピーチ内容はあらかじめ主催者側に伝えてあり、ステージのスクリーンに日本語訳が映し出されるようになっている。ここで葵は何を語ったか?(日本語訳で)

 「人に優しくできる人は、自分に自信があって余裕のある人です。私たちの小さな優しさは、世界を優しくすることができると信じています。それは私の亡き父との約束を守ることでもあります」

 ここから葵は、予定になかったことを話し始めた。

 「実は今日は私の父が1年前に亡くなった日です」

 ここで涙を一瞬こらえ、葵は言葉を続けた。

 「I hope he knows,he knows.You are my hero forever!」(お父さんは知っているでしょう?あなたは私のヒーローです、永遠に)

 思わずもらい泣きする壇上のファイナリストたち。葵は最後をこう締めくくった。

 「自信を持って、優しく、そして幸せになりましょう。ありがとう」

 拍手の中、脇に下がった葵を、隣に立つミス・ロシアのヴェロニカが抱きしめた。葵の目にも涙。こうしてすべての審査が終わった。


自らの人生を切り開く

《最終審査結果は…2位でも悔しい》


▲母、祖母と大切な父の写真に囲まれて笑顔を見せる葵(中央)

 最終審査結果は、中間発表で選ばれた8人の中からトップ5を選び、5位から順に最高のグランプリまで発表される。5位、4位、3位と進んで、2位は…「ミス・ジャパン」。

 小牧葵が選ばれた。笑顔で前に進み、サッシュ(たすき)とティアラを受ける。目は潤んでいるように見える。でも、なんだかうれし涙ではなさそうだ。そのことは賞を手渡した主催者代表の真利愛も気づいていた。

 「ティアラを頭に載せたとき、めっちゃ悔しそうな顔してるなって、分かりました。1位になれなくて悔しいんやろうなって。彼女はアスリートだから、1位じゃないと気が済まないんですよ。でも、よう頑張ったよね。まったく歩けなかった(ウオーキングができなかった)あの小牧葵が準グランプリですよ。この数カ月の彼女の努力が実りました」

《「この体験を生かしたい」》

 では、本人の今の気持ちは?

 「ちっと悔しい。いや、光栄なんだけど、悔しさ8割。(ファイナリストの)みんながスピーチを気に入ってくれたし、その前からみんなも私のこと認めてくれてたので、本当に心から1位になりたいと思ってたので、できなかったのが悔しい」

 お父さんに何と伝えたい?

 「見守ってくれてありがとう。パパの背中を見てきたおかげで、自分がしんどい時にも人に優しくできたよ。ファイナリストたちから、あなた の優しさにたくさん救われたと言われた時に、パパを思い出した。いつも私も救われていたんだと改めて気づきました。大丈夫。これからも楽しみにしててね」

 いいこと言うなあ。では今一番したいことは?

 「肉! 肉を食べたい。ずっと減量のため鶏の胸とかささみで我慢してたから、がっつりしたやつを。それと酒が飲みたい。あとマヨネーズ食べたい、いや飲みたい!」

 周囲から思わず笑いがこぼれる。「まったく、葵ったら、あんなにいいこと言ったのに」という感じだ。

 では最後に、これから先の人生、どうする?

 「まだ考えてませんが、この体験を生かしたい。新しい世界が見えたので。自分が人に見られる世界ですね」

 日本人が一から企画した初のミスコンを主催した、代表の真利愛も期待する。「今回の大会は大成功ですよ。来年も成功させます。そのために、小牧葵には準グランプリとしてしっかり手伝ってもらわなきゃ。だって世界2位の美女ですよ」

 小牧葵、22歳。彼女は自分の人生を自ら切り開こうとしている。それは亡きお父さんの教えでもある。

(おわり)

※小牧葵さんの画像は本人のインスタグラムにもあります。https://www.instagram.com/coao2/


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