週刊大阪日日新聞

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2019/9/14

相沢冬樹の視線 夏休みの終わりに子どもを死なせないために

子どもを追い詰めない

 夏が終わり、大阪市の公立小中学校では8月26日から2学期が始まった。近年、前倒しで2学期を始めるところが増えたが、かつては2学期といえば9月1日に始まるものだった。

 そして、この日は1年で最も多くの子どもたちが命を絶つ日だ。内閣府が過去約40年間に18歳以下の子どもが自殺した日を調べたところ、9月1日が131人と突出している。ほかに100人を超える日はない。前後の8月31日と9月2日も90人台と多い。夏休みが終わって学校に行かなくちゃいけない。それが子どもを追い詰めていることがうかがえる。

 【「学校なんて行かなくていいよ」と呼び掛ける前に、なぜこんなに不登校が増えてるの?】

 だから、例年この時期に「無理して学校に行かなくていいよ」キャンペーンが行われる。もちろん、死ぬほど嫌な学校なんか行く必要はない。でも「行かなくていいよ」と言っておいて、その先はどうなる? 誰がケアするの? 結局は家族が支える。それももっぱら母親が。公的機関はほったらかし。

 それっておかしくない? 子どもたちが死ぬほど行きたくないと訴える学校こそ変わるべきじゃないの? 学校って子どもたちのためにあるんじゃないの?

 文部科学省の統計によると、不登校の小中学生はここ数年増え続けている。この子たちに「学校に行かなくていいよ」と呼び掛けるだけでは無責任ではないか?

 【不登校の子どもの親たちが立ち上がった】

 この状況に当事者の親たちが声を上げた。不登校保護者会である。きっかけは今年5月に川崎市で起きたスクールバス殺傷事件で、容疑者が引きこもり状態だったと報じられたことをきっかけに、全国の不登校の子どもの親たちがツイッターで緩やかにつながりながら会を立ち上げた。

 そのブログに「夏休みの終わりに子どもを死なせないために」という記事が掲載された。

 【子どもが不登校になっても責めないで 奇妙で息苦しい学校こそ問題】

 記事はまず不登校の子を持つ保護者たちに、子どものことを理解してあげてほしいと呼び掛けている。

 「学校へ行くことは、絶対に必要というわけではないのです」「奇妙で息苦しい風潮が、いまの学校教育には蔓延しています」「学校へ行かなくても我が子には価値があることを、子どもに伝え続けることがとても大切です」「不登校を経ても夢をかなえて頼もしい大人に育っていく子たちがいます」「保護者の皆さんには、とにかく無理に登校させない。学校行けなくても叱責しない。夫婦喧嘩を子どもの前でしない。これらを最低限、徹底していただきたいです」

 【学校の指導が子どもを死に向かわせていないか】

 記事は続いて学校の先生たちに、子どもたちを追い詰めないよう求めている。

 「『学校に行かなかったらお前の人生は終わり』などという決めつけもやめて下さい」「『学校来てない奴に行ける高校なんてない』という誤情報を流さないで下さい。不登校でも進学できる高校、大学はあります」「学校の日頃の指導が子どもを死に向かわせていないか、丁寧に考え直していただきたいのです」

学校の息苦しさこそ変えるべき

 不登校保護者会に参加している大阪の女性にお会いした。ツイッター上でのアカウント名は「ぽんこ」さん。小学3年生の息子は自閉スペクトラム症(人との関係が苦手で強いこだわりを持つのが特徴の発達障害の一つ)で、1年生のころから不登校だという。

 「初めは『学校のせいで子どもの学習権利が奪われた』怒りでいっぱいでした。マジでふざけんなよって。でも、子どもの家庭での学習が軌道に乗って、次第に落ち着いてきたら『先生も大変だよなあ…』という気持ちに変わりました」

 「役所の心理士の方や精神科医に支えられてきました。知識とプロの技術はパニックの闇を払う光ですね。混乱したままでは何もいいことがないので、自分が冷静で朗らかな気持ちを取り戻すことだと思います」

 「でも一番心の支えになったのは、『昔子どもが不登校だった』というお母さんや『自分も不登校だった』という当事者のお話ですね。だから私もできる限り自分の体験をほかの人に伝えたいと思っています」

 【不登校は問題行動ではない。やむにやまれぬ行動だ】

 不登校保護者会は7月、児童精神科の専門医を招き勉強会を開いた。東京慈恵会医科大准教授の井上祐紀さん。主にADHD(注意欠陥多動性障害)の幼児や思春期、青年期の子どもたちを診察し、研究を重ねてきた。井上さんは、不登校を問題行動の一環と捉える教育界の風潮にそもそも問題があると指摘する。

 「不登校は健康問題としての側面があるんです。例えば発達障害のある子がきつい症状を抱えている。そのきつさを避けるためのやむにやまれぬ行動が不登校なんです。健康問題なのに問題行動と捉えるから指導が強圧的になる。だからますます学校に行きたくなくなる。悪循環です」

 「今、学校現場で最も軽視されているのが子どもの健康です。例えば好きな時間に水を飲めない、トイレにも行けない。これは健康に悪いですよ。子どもの健康より集団の規律の方が優先されることになる」

 「すべての子どもが力をうまく発揮できるような配慮が足りていない。子どもファーストで考えるべきなんです。不登校は子どもの問題ではない。学校の問題として責任を認めないといけない。その子はどういうところがきつくて学校に来られないのか、その子に合う環境は何かを考えてあげることが必要です」

 【自己満足な放送企画はいらない】

 全国の不登校の小中学生は14万人。自殺する児童生徒は年間250人。こんなに多くの子どもが学校に行けず、多くの子どもが自殺するって、異常事態ではないか。

 不登校保護者会のブログは、最後にマスコミの報道姿勢に疑問を投げ掛ける。

 「傾聴だけの企画やぼんやりした喋り場を提供して、ガス抜きして『なんかいい雰囲気』になって終わり、支援につながらない自己満足な放送企画は要らないです」

 「『死にたいと思うくらいなら図書館、動物園、水族館へ逃げていいよ』の後がおそろしく過酷であり、逃げた後を自己責任と見捨てている社会を変えなければ何も変わりません。このままでは、死にたい子、心中を企図する家庭、子どもを殺してしまう家庭が減るわけありません」「学校の息苦しさの本質をえぐり出し改善を求めるのが、報道機関の役目なのではないでしょうか」

 学校なんて行きたくないなら行かなくていい。でもそれだけじゃだめだ。学校が変わらなければ。子どもたちが行きたくなる、真に子どものための学校に。そんな学校に変えるのは、教師、教委、保護者、政治、報道。そう、私たち大人の責務だ。


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