週刊大阪日日新聞

大阪市(北・都島・城東・旭・鶴見区)・守口市・門真市
(社)日本ABC協会加盟紙 251,012部

2019/7/13

そうやったんや! 畑山博史のわかるニュース

お笑い芸人 闇営業問題に迫る

 お笑い芸人が闇営業(大阪の芸能界では直営業≠ニいう)をした先で、主催者に詐欺グループや暴力団などの反社会的集団がいたことが発覚。彼らが受け取った汚れた金≠巡り、「そんないかがわしいバイトをしないと、芸人は食べられないの?」という素朴な疑問が世間で噴出。事件に関与したタレントを抱える笑いの総合商社°g本興業に不審の眼が向けられている。長く同社を取材してきた経験と知識からその内幕を明かす。

芸人はホントに食えない? 吉本式ビジネスモデルの光と影

 吉本興業が2年前に発行した『吉本興業百五年史』(非売品)。この中に、なぜ吉本が「反社会的勢力、いわゆる暴力団と手を切ろうとしていたか?」がくわしく記されている。

 ジャーナリスト西岡研介さんの「興行とアンダーグラウンド」と題した特別寄稿には、山口組の2代目、3代目組長と、吉本興業の創業者・吉本せいさんとその弟で後に会長となる林正之助さんとの関わりがつぶさに紹介されている。当時の芸能界と興行を仕切る地元暴力団は、持ちつ持たれつの関係にあり、必要悪であった。

 今回の闇営業に関しても吉本側は「長い芸能の歴史において反社会的勢力との関係が取りざたされたことは事実であり、このことは過去の当社においても例外ではなかったものと考えます」と認めている。

「お家騒動」機に、反社会勢力との決別

 その同社が2009年の上場廃止のタイミングで、反社会勢力との完全決別を打ち出した背景には、07年の「お家騒動」がある。『吉本興業百五年史』には、「役員人事を巡る脅迫を受け、警察に被害相談をする事件」と、当時の混乱ぶりを記している。

 09年には会社側の相談相手だった漫才師の中田カウスさんが、信号待ちで車の窓ガラスを割られ、けがをする事件が発生。それでも同社は在阪テレビ局などから支援を受けて増資し、現経営陣による上場廃止を一気に実現した。吉本興業ホールディングスの大ア洋会長(当時、副社長から社長に昇格)は「(会社を)非上場とし、反社会勢力の人たちには出て行ってもらった。関わった役員や先輩も追い出し、この10年やってきたつもり」と振り返る。

 トップタレントの島田紳助さんが11年に暴力団幹部との交際を認めた時も、同社は大きな損失を承知で引退させた。こうした壮絶な暗闘史を考えると、今回の事件をウヤムヤにできるはずがない。

強みがピンチに

 テレビ局が吉本を頼りにするのは、バラエティー番組の制作を丸投げできるからだ。その圧倒的なタレント保有数を強みに、司会もゲストも吉本芸人、パネラーの文化人さえ吉本所属。局側は「1本いくら」の制作費さえ示せば、後はタレントだけでなく、現場スタッフから構成作家、裏方まで集めてくれる。

 今回の事件で、雨上がり決死隊の宮迫博之さんやロンドンブーツ1号2号の田村亮さんら中堅の売れっ子が謹慎処分になっても、所属タレントが圧倒的に多い吉本は、たちまち同等かそれ以上の格の芸人を社内で穴埋めできる。

 ビートたけしが「芸人に食えるだけのギャラをやれば、闇営業などしない」というのは確かに正論だ。しかし、総額の中からギャラまでやりくりして番組を作るのが吉本式。制作費が少ない番組なら、ギャラの少ない若手芸人で出演者を確保し、番組として成り立たせるしかない。その分、若手芸人にとってもテレビに出やすくなるメリットがある。

 芸人の生活実態はどうか。タレント部門トップのよしもとクリエイティブエージェンシー(現在は名称変更し吉本興業)藤原寛社長(現在は副社長)が昨年のインタビューで「所属タレントは6千人。その中で芸人だけやって食えるのは200人」と答えているように、若手芸人の生活はアルバイトに追われ厳しい。ピース又吉直樹さんの芥川賞小説「火花」はほぼ実話で、希望を抱いて上京しながら売れず、無名のまま辞めていく芸人は数多く存在する。

多彩さで売り出し

 吉本が専属契約書を取り交わしている芸人が一握りなのも事実だ。理由は「すべての行動を、お笑いタレントとしての契約書一本で縛りたくない」という意図からだ。又吉さんのように予期せず小説で売れる芸人もいるし、画家や音楽家として突然ブレークする人もいる。

 「普段から自由にいろいろなジャンルに挑戦しなさい。サポートが必要なら会社が相談に乗る」という余地を、あえて契約書を交わさないことで残している。民法上は、書面の有無が契約自体の存在を決めるものでなく、口頭による契約も法的には有効だ。

劇場も持つ特殊性

 他の芸能プロダクションと比べたとき、吉本の持つ決定的な強みは、自社運営の劇場が多い点だ。大阪の本拠地・なんばグランド花月をはじめ、京都のよしもと祇園花月、東京のルミネtheよしもとなどその数は全国で十数館。約1千人といわれる社員は、他のプロダクションのようにタレントのかばん持ちに専念せず、劇場での舞台制作や運営に携わる。これが同社の「マネージャーの絶対数が少ない」と批判される理由だ。

 もともと現場担当は「タレントのそばにいるプロデューサーたれ」と社内で教育され、相手がたとえ大御所タレントでも「師匠と呼ばず、さん付けする」のが伝統だ。

 昨年暮れにM─1で優勝した「霜降り明星」のように、突然ブレークする若手はこうした劇場で1回いくらで出演し、客に鍛えられながら育つ。だからこそ「前月まで月収の6万円を全部千円札に変えて、毎日2枚ずつ使う赤貧生活」だった芸人が、1カ月後に月収が10倍になるアメリカンドリーム≠熕カまれる。

クリーン芸人の時代

 一昔前まで「芸人は破天荒」が常識だったが、現代はクリーンで安心感のある芸人が売れる。高学歴芸人も増え、銀幕スター女優と結婚するお笑いタレントも出てきた。その風潮の中で、好んで闇営業に手を染める若手芸人は皆無だ。

 しかし横のつながりで芸人仲間に誘われ、行った先で危険な人物と同席したり、ノーギャラのつもりでも帰り際に「お車代」と現金を手渡されたりしたときに断わり切れるか、などの課題はある。吉本が今回の事件処理で後手に回っているように見えるのは、所属タレントの多さから聴き取りに手間取っているからだ。外部には公表していないが、専門の担当者と24時間連絡が取れる社内ホットライン≠設けており、タレントが私的なトラブルや金銭貸借などを相談できるようにしている。

 同社は、来年の東京五輪パラをはじめ、25年の大阪・関西万博など公的事業との親和性も高い。今回の件の処理をないがしろにして、再び糾弾されることがあれば、こうした事業からの撤退もあり得る。これまで経験した痛み≠カテに、反社会的勢力と必死に戦ってきた企業だからこそ、徹底的な調査と対策が待たれる。


週刊大阪日日新聞
最新号
毎月第2・第4土曜発刊
毎月第4土曜発刊
「大阪日日新聞」
電子版
電子版の詳細はこちら
アップルストア グーグルプレイ
日日チャンネル【Gotoキャンペーン編】/「宿泊」「ステーキ食べ放題」「お酒飲み放題」で、なんと! 2,500円 だった
pagetop