週刊大阪日日新聞

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2019/1/26

大阪発・論点「野分」

韓国映画「共犯者たち」は人ごとか?

 「記者は取材できないのが最大の苦痛」…韓国映画「共犯者たち」に出てくる言葉です。政権がテレビ局の人事に介入し、報道を思い通りに操った実態を描くドキュメントです。韓国の公共放送=KBSの調査報道チームは政権に不都合な事実を報じていましたが、解体され、記者たちは取材職を外され非制作部門へ異動させられました。チームを率いていた人物が語ります。「記者が現場を離れたら取材できない。最大の苦痛です」

 その後、韓国KBSでは権力批判の番組が廃止され大統領広報番組が生まれたといいます。その名も「こんにちは 大統領です!」大統領本人がカメラに向かって、いかにさまざまな人の言葉に注意を払っているかを語り、「今後も国民の皆さまの声に耳を傾け、さらに頑張ることを約束致します」と締める。提灯記事ならぬ提灯番組です。

 民主主義を揺るがす事態ですが、私たちはこれを「対岸で起きたこと」と呑気に構えていられるでしょうか? 政権のヨイショ報道は日本にはありませんか? 桜島を背景に安倍首相の自民党総裁選出馬表明を生中継し、スタジオで記者解説したNHK。去年9月の北海道地震では「16人死亡 安倍首相」と、わざわざ首相名をスーパーに入れました。

 そして新年、日曜討論で安倍首相が沖縄・辺野古への土砂投入を巡り「あそこのサンゴは移している」と、事実と異なる発言をしても司会者は問いただすことなく、収録した発言をそのまま放送に出しました。この一連の流れは、韓国で起きたことと違いがあるでしょうか?

 もう1点、映画と日本の共通項があります。ほかならぬ私自身に起きたことです。政権に不都合な事実を報道したとたん記者を外され、非制作部門に異動となりました。去年6月のことです。私の異動は「官邸忖度人事」などと一部で報じられて話題になりました。映画のセリフ通り、私は取材ができなくなることに最大の苦痛を感じ、31年間勤めたNHKを辞めました。

◇          ◇

 こうした森友事件を巡るNHK報道の内幕や取材の実態について、私は本を書きました。題は「安倍官邸vs.NHK 森友事件をスクープした私が辞めた理由」。 この本についてNHKは、定例会見で「虚偽の記述が随所に見られる」と述べましたが、何が虚偽かは明らかにしていません。

 ですが私には一つの推測があります。本の発売日に報道局内の会議で、報道局長に次ぐ編集主幹の1人が「本に関しては虚偽の記述が随所に見られる」と発言しているのです。会見で出したコメントと共通しています。

 実はこの発言をした編集主幹は前の社会部長なのです。本を読んだ方はお分かりになるでしょうが、彼は社会部長時代、私の特ダネを出すために報道局長と繰り返し掛け合っています。私は求めに応じて、社会部長が報道局長を納得させるための材料を取材で集めました。そうした背景事情を本に書いたわけですが、その部分について報道局長から「本当にこんなことをしていたのか?」と問われて、「はい、そうです」とは立場上答えにくいでしょう。つまりその部分は「虚偽だ」と言わざるを得なくなります。

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 「共犯者たち」という映画の題は、長年報道現場に身を置きながら保身のため政権側に協力した放送局の職員たちを指す言葉です。私はNHKの現場の職員をそこまで強く批判するつもりはありません。報道を歪めている主犯格は政権におもねる幹部らでしょうから。ですが「仕方がない」と諦めて受け入れる空気が職場に広がっているとすれば、まさに「共犯者」になりかねません。

 このままでは視聴者の信頼を失い受信料制度の根幹を揺るがしかねないと危惧するからこそ、内部の人があげられない声をあげて世論に訴え掛けたいと思います。

(大阪日日新聞 論説委員・記者 相沢冬樹)


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