週刊大阪日日新聞

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2019/1/12

大阪発・論点 「野分」

森友事件 佐川元理財局長は今

 森友事件の本質やNHK報道の舞台裏を記した「安倍官邸vs.NHK 森友事件をスクープした私が辞めた理由」という本を私が出してからおよそ1カ月がたちました。東京・渋谷のNHK放送センター内の書店でも完売するなど売れ行きは順調です。しかし真相追及の取材は道半ばです。

◇        ◇

 本についてかつての同僚からは「よく書いてくれた」という評価に加え「もっと核心に迫るものを期待していた。さらに踏み込んでほしい」というお叱りと励ましの声も伝わってきます。一方、本の中で私が「特ダネに激怒した」と書いた小池報道局長は、発売日に報道局の会議で「私の意向で報道内容が恣意的に歪められたことはない」と述べたそうです。しかし、その言葉を額面通りに受けとめる報道局職員は少ないでしょう。彼らは「Kアラート」と呼ばれる「圧力」に直面してきたのですから。

 事件の一方の主役、森友学園の籠池泰典前理事長もこの本を読んでくれました。「森友事件は森友学園の事件ではなく、国と大阪府の事件だ」との指摘について、籠池氏は「的を射ている」とした上で次のように述べました。「小学校設立は、安倍晋三首相と昭恵夫人、それに大阪府の松井一郎知事のスクラムによって始まった。ところが去年2月に問題が明らかにされると、私がトカゲのしっぽ切りにされた。真犯人の責任は問われていない。相沢さんにはそこを追及してほしい」

 この厳しい指摘に応えることこそ記者の務めです。

 しっぽとして切られた最大の被害者は、自ら命を絶つところに追い込まれた近畿財務局の職員でしょう。仮にBさんとします。Bさんについて同僚たちの評判は極めてよく、誠実に仕事をこなす有能な役人と見られていました。そのBさんが公文書改ざんという常識外れの不正行為を求められたのです。

 その無念さをBさんはメモのような形で残しています。完全な形では明らかになっていませんが改ざんについて「もとはすべて佐川宣寿理財局長(当時)の指示だ」とはっきり記しているといいます。財務省の中枢にいる人物の指示で、自分はこんな不正をやらされたのだという思いを文書に残していたのです。

 その無念の思いについて当の佐川氏はどう受けとめているのでしょう?

 12月のとある朝、私は都内の閑静な住宅地にある佐川氏の自宅を訪ねました。しばらく姿を見せるのを待ちましたが、ごみの収集日だというのにごみを出す動きもありません。近所の人の話では、最近は誰もこの家に住んでいないようです。しかし玄関の花は生き生きしているし、誰かが定期的に訪れて手入れをしていると見えます。私は本に手紙を添えて郵便受けに入れました。佐川氏が受け取り読んでくれることを願って。

 翌朝、再び佐川氏の自宅を訪ねました。するときのうは玄関前に止まっていた車が、今朝は消えています。誰かが来たに違いありません。私は再び手紙を書いて郵便受けに投函(とうかん)しました。

 考えてみれば、佐川氏が関与したのは国会答弁と公文書改ざんです。許されるものではありませんが、肝心の国有地売却には関与していません。首相答弁と整合性を取ろうとして役人人生の最後を棒に振ってしまったことを考えると、彼もまたしっぽとして切られた一人なのかもしれません。

 森友事件は多くの人の人生を変え、私の人生も変えました。しかし国が国有地を安値で売り、大阪府が小学校を設立させようとした謎は、まだ解明されていません。その謎を解き、亡くなった近畿財務局職員の無念を晴らすまで、真相追及の手を緩めるわけにはいきません。

(大阪日日新聞論説委員・記者 相沢冬樹)


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