2017/6/10

そうやったんや! 畑山博史のわかるニュース
米、パリ協定離脱 トランプ式一国繁栄≠ヘ可能か?

麻生氏バッサリ「その程度の国なんです」

 米国のトランプ大統領が、地球温暖化対策の根幹であるパリ協定(COP21、2015年11月)からの離脱を宣言した。前任者オバマ氏を全否定しないと気が済まないトランプ大統領だが、TPP(環太平洋経済連携協定)は同様に離脱したものの、オバマケア(医療保険制度改革)やメキシコとの国境の壁建設はどうもうまく行かない。そこにロシアゲート疑惑が持ち上がり、体制崩壊危機が叫ばれはじめ、慌てて支持者引き留めへ公約実現を優先した格好。今後の内外の波紋を調べてみよう。

自分の地位と家族・ファースト

 離脱効果の狙いは3つ。まず「低下した支持率の踏み固め」。トランプさんは就任まだ半年だが、支持率はずっと4割台前半、逆に不支持は5割台中盤と珍しい数字の推移だ。予想された結果とはいえ、支持率が3割台に落ちないのも逆にすごい。炭鉱労働者や自動車、鉄鋼の重厚長大企業があるペンシルベニアやオハイオなど内陸部で一昔前の産業労働者に熱烈なファンが多いからだ。トランプ氏はこの層に受けようと協定離脱を言い出したのだ。当然反発もある。カリフォルニアやニューヨークなど東西沿岸の先進開放型の州、アップル、アマゾン、グーグル、マイクロソフトなど日本でもおなじみの次世代的IT企業、エクソンモービルなど低公害燃料販売を行う大手石油会社などはこぞって反対だ。

 続いては、「ロシアゲート疑惑から目をそらせる」ため。5月上旬にコミーFBI長官が解任されて以降、トランプ大統領側近のロシアとの不適切な関係に対する捜査が着々と進んでいる。担当の特別検察官にミューラー元FBI長官が任命され、娘イバンカ補佐官の夫であるクシュナー上級顧問の関与まであぶり出された。すでにこの問題では、トランプ大統領誕生直後にフリン補佐官がロシアとの接触が判明して辞任。火のないところに煙が立っている訳ではないので、大統領は何としても逃げ切って自分の地位と家族を守りたい。

 最後は実にセコい話だが、パリ協定離脱で先進国が発展途上国の温室効果ガス抑制のために設けた「緑の気候基金(GCF)」への米国分拠出金30億ドル(3330億円)をチャラにして浮かせ、自分を支持してくれる労働者層への政策実現に使いたい思惑だ。

中国、協定堅持を表明

 今回のトランプ大統領の措置で一番得をするのは中国だ。李克強首相は早速「気候変動との戦いは我々の利益になる。中国はパリ協定の約束を堅持する」と高らかに宣言、欧州のEU各国から賞賛されている。

 中国はトランプ大統領の保護主義を批判して「自由貿易堅持」を表明しているから、立場がすっかり入れ替わった。習近平国家主席は一帯一路≠ニ呼ばれるユーラシア大陸全体を包み込む現代版シルクロードを提唱。欧州・ロシアを含む連携を画策しているから、トランプ大統領の米国はますます置いてきぼりになる。

 パリ協定の枠組みは昨年11月に3年期限で発効しているから、米国が離脱宣言しても通告受理は最短で再来年19年11月になる。そこから1年後の20年11月に正式脱退可能で、それはトランプ大統領の任期切れの21年1月間近だ。

先端産業にブレーキ

 これまで、米国の強みは国家ビジョンが科学的裏付けに基づいて策定され、世界に先駆け低公害ビジネスを太陽光発電や電気・水素で動く自動車の開発などでリードしてきたことだ。

 こうした未来戦略につながる先進企業による研究開発は今後も企業独自で続けられるが、大統領が重厚長大型産業に回帰して炭鉱再開に大喜びしているのだから、先端産業世界でのリーダーシップを失い各種開発に急ブレーキが掛かることになる。


世界中の人々の暮らしが破壊される

映画「不都合な真実」が現実に!?

 では、肝心の地球温暖化は大丈夫なんだろうか?ちっとも大丈夫ではない。産業革命(18世紀後半)からの世界平均気温をみると、百年後の19世紀後半までほとんど上昇はなかったのに、50年後の1940年代で0.5度アップ、その後は少しずつ着実に上がり続け、 20世紀後半から21世紀に入って急に高くなり1.2度まで上昇。このまま対策を講じなければ22世紀末には最大4.8度上がる予測が出ている。大体、現在のパリ協定での目標が全部実現しても3度くらいの気温上昇が予測され、目標の2度までには抑えきれない。これは気温の上昇が一部海水に取り込まれ、海水温の上昇に結びつくことと、永久凍土内のメタンガスが放出されるためと考えられている。かんばつと集中豪雨の繰り返しで世界中の人々の暮らしが破壊される過程はアル・ゴア元米国副大統領が出演したドキュメンタリー映画「不都合な真実」(2006年)=米アカデミー賞ドキュメンタリー部門=に詳しい。

 トランプ大統領はこれらの科学的データを「でっちあげ」と一蹴、「人為的取り組みなど無意味」という一部学説を強く支持している。

 日本の麻生副総理兼財相は、今回の離脱について「その程度の国なんです」とバッサリ切って捨てた。

 世界のリーダーとしての地位を自ら放棄した米国は、後ろを向いたままゆっくりと国勢衰退の階段を下りていくことになるのだろうか?