2016/6/25

そうやったんや! 畑山博史のわかるニュース
イチローのここがすごい!! 日米通算でメジャー記録超す

野球より面白くて楽しいことはない

 米大リーグのマイアミ・マーリンズ、イチロー外野手(42)が、ピート・ローズ選手が持つ通算最多の4256安打を抜いた。私はイチローのプロ入り当時、阪神タイガースの担当記者でベストナイン選考委員もしていたので、今回は読者に伝聞側聞ではないイチローのすごさをお教えしよう。

他の打者との違い

 オリックス入団時は投手だったのちのイチローこと鈴木一朗選手。現在は180cmで80キロ近い体格でも、当時は70キロ前後だったのを覚えているよ。甲子園に2回出場し、クリーンアップでエースだったけれど、強烈な印象はなく、当時、私が担当していた阪神では彼の獲得を考えたこともなかったよ。そのわけは「右投げ左打ちは魅力だが、線が細い」からなんだ。

 オリックスに入団して最初の上司となった土井正三監督のもとではあまり出場機会を与えられなかった。でも当時、スポーツ紙のカメラマンとの会話が妙に印象に残っているよ。

 「鈴木のヒットを撮り損ねたよ」「なんで?」「だってアイツ、テークバック(打つための始動)するのちょっとだけ遅いんやもん」

 イチローは他の打者より「何千分の1秒だけ始動が遅い」という言葉に私はピンときたんだ。予想通り、翌94年に仰木彬監督が就任すると、解き放たれたようにヒットを打ち始めた。仰木監督は育成には不向きなタイプだったけれど、選手の好不調を瞬時に見極める目はずば抜けていた。連日「イチローは今日も使える」と判断し、好きなように打たせ続けたんだ。その結果、7年連続の首位打者に輝いた。

「どんな球も」と野村監督

 イチローが安打製造機と言われ始めたころ、ヤクルトの野村克也監督に「どこがすごいのか?」をうかがったことがあるよ。

 監督は「野球の基本は何や?」と切り出し、「打者の目から一番近いところを通るインハイ真っ直ぐ(内角高め速球)と、正反対のアウロー変化球(外角低めのフォークボールなど)や」と一言。

 イチローは外角の球は拾うように左翼方向に流し打ちでき、内角への厳しいボールは引っ張って右翼方向への長打にできる、という意味なんだ。つまり、この正反対のボールを打てるなら、どんな球も対応できるいうことなんだ。

 そのすごさを実際に目の当りにしたのが、09年春のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の決勝・韓国戦だったよ。

投手追い込む打撃

 延長10回表、3─3同点で2死1、3塁で回ってきた打席で、2点適時打を放ったイチロー。テレビのハイライト映像では、適時打のシーンばかりを見せているけれど、追い込まれてからの3本のファールにイチローのすごさがあるんだ。相手投手はイチローを討ち取るために全力で勝負球を投げたけれど、すべてファールされた。しかもボール球に手を出してくれない。イチロー級の打者に、同一打席で2度は同一球質・球種・コースは使えないからね。その結果、投げる球がなくなり、「一か八か」で勝負するしかなくなった。

 これがイチローの打撃の本質。内角は引っ張り、外角は流す。そして真ん中は投手方向に打ち返す。難しい球はファールで逃げ、どんどん投手を追い込む。この神髄は、私が最初に指摘した「人より何千分の1秒遅い始動」にある。つまり、他の打者よりボールをじっくり見れるので、なかなか空振りせずファールできるんだ。

自分の信じたものだけ

 しかも野手として、当たり前の走攻守の3拍子がそろっている。これを簡単にやってのけるイチローの秘密は、「野球より面白くて楽しいことはない」という満足感が反映する節制生活だ。

 彼は練習も食事も「自分に合っている」と思ったら、誰が何を言おうとそのペースを守る。試合後のトレーニングも試合前のルーティンも自分の信じた物しかやらない。道具や機材、好物類を扱う人がイチローご用達≠盛んにPRに使っても、彼自身は「ボクには合っている」というだけ。ペナントレース中は酒もほとんど口にしないなど、体調維持のプラスにならないことには時間を使わない。

 イチローなら大リーグの長い歴史で過去30人ほどしかいない大リーグ通算3千本安打も簡単にクリアしていくだろう。過去の実績も、実年齢も関係なく大好きな野球をやれる限りやる。とてつもなくすごいし、それが苦にならないとっても幸せ者なんだ。