週刊大阪日日新聞

2008/2/23

彼岸の「いま」を探る!

 春と秋の年に2回、親、兄弟、先祖の墓を参り、思いを巡らせる日本の伝統行事「彼岸」。年々悪質化し、理解を超えた犯罪が増え続ける時代だからこそ、古来より続くこの習慣をあらためて見直してみるべきはないだろうか。現代において墓石の前に立って手を合わせることはどんな意味持つのか。彼岸の「いま」を取材した。

供え物 [和菓子] 御菓子司 梅屋谷口忠良氏に聞く

「彼岸は古き良き伝統や」創業50有余年の御菓子屋

 お彼岸には、一般的にお墓参りやお仏壇を拝み、本尊や祖先の供養を行うというのが日本古来の慣習。そこで、忘れてはならないのが、お供え物だ。お線香、お花、お水と一緒に故人の好物や和菓子などをお供えするが、みなさんはどんなものをお供えしているだろうか。お菓子のプロに話を聞いた。

 大阪市城東区で創業50有余年という御菓子司「梅屋」を営む谷口忠良さん(72)は、1代で現在の「梅屋」を築いた現役の和菓子職人だ。地域に根差して、今は2店舗を夫人と娘さん、パートさんの3人で切り盛りして いる。本店(同区新喜多東1丁目)は忠良さんと妻の紀代美さん、蒲生店(同区蒲生4丁目)では娘の寿江さんと、長年、手伝ってもらっている角本いく代さんが毎日忙しくお客さんを迎えている。もちろんお菓子作りは忠良さんの仕事。つぶあん、しろあん、桃山生地の3重奏が1度に味 わえる第21回全国菓子大博覧会会長賞受賞の「佳実梅(かさねうめ)」や黄身あんのまろやかさが楽しめる第20回同名誉金賞受賞の「梅しぐれ」をはじめ、赤飯、おもち、焼き菓子、生菓子など約50〜60種類のお菓子を、毎日1人で丹精込めて作っている。「おいしいお菓子を作って、お客さんに喜んで買ってもらえるように必死です。ただそれだけです」と忠良さんは言う。


▲仕事場でお菓子について熱く語る谷口忠良さん

 お彼岸については、「日本の古き良き伝統。例年忙しいが、それは逆に、時代が変わっても、文化や伝統 は継承されていることの証しでは」と忠良さん。供え物としては、おもち、おはぎ、桜もちなどが好評で、同店では彼岸用に「彼岸だんご」もつくるという。また、故郷や親せき縁者へのお参りには、「佳実梅」や「梅しぐれ」など定番の詰め合わせなどが好評のようだ。

 文化や伝統は継承されても、やはり、時代とともにお客さんの味覚やニーズは絶えず変化している。忠良さんは「お客さんのニーズに応えることができるように、日々勉強です。それぞれ好みがあり、今の時代、押し付 けは通用しない。定番以外で、1年に一つ二つは新製品も作っている」と。そして、一口においしいものと言っても、やはり、砂糖や小豆など材料の一つ一つにもこだわり、味についてはとことん追求している。女性誌や料理本などにも目を通しているというから、まさにたゆまぬ探究心 だ。実際に店頭には、和菓子というジャンルからはあまり想像できないパウンドケーキやシュークリームも並んでいる。「何でも、ただ作ればいいというものではなく、お客さんのおいしい≠フ一言と、喜びの笑顔が、何よりも一番うれしく、励みにもなる。そして、お菓子の出来、不出来のバロメーターになる」と、忠良さんは熱く語ってくれた。忠良さんの目標であり、モットーは「一生勉強。生涯現役」だ。

問い合わせは、梅屋本店・電話06(6962)3972
 または、蒲生店・電話06(4255)1800へ。
http://www2.odn.ne.jp/umeya


四天王寺管長に聞く「彼岸の心」

現代だからこそ見詰め直す行事


▲第110世管長 出口 順得さん(70)
「先祖を思う心は社会の秩序づくりにつながる」と彼岸の意義を話す

 四天王寺は創建当時、門前まで海が広がり、沈み行く夕日を拝むことができた。その夕日を見た弘法大師空海が西方に極楽浄土を見出す「日想観」と呼ばれる修行を始めたとされている。そこから真西に日が沈む春分、秋分の日前後3日間の1週間を、悟りの境地を表す「彼岸」と名付けたといわれる。彼岸のルーツとも言うべき名刹、同寺の出口順得管長に「お彼岸」に込められた意味を聞いた。

彼岸に秘められた「日本人」

 「彼岸」という行事をひも解くと単なる家族行事というだけではないところがあります。現在、日本は世界的に見ればまだまだ豊かで安全な国です。それは子から孫へ「伝承していく」ということを重んじた結果だろうと思います。「日本人は有能」「日本人は勤勉」などということが言われます。しかし、人間の能力は世界中でそんなに大きく変わりはないはずです。なぜ第2次世界大戦で敗戦国となった日本が栄えたのか。教えや技術を惜しまず、そして絶えず受け継いできたことが発展へと導いたのだと思います。

いま生きるありがたみ


▲春分、秋分の日の年2回、真西を向く四天王寺の鳥居の真ん中に沈む夕日。これを見た空海が彼岸の元となる「日想観」の修行を始めた=2007年9月23日、同寺

 受け継ぐためには先人を敬うことが大切になってきます。子が親を、生徒が先生を、親が祖先をというように。最近は親子同士の痛ましい事件や学校現 場の崩壊が叫ばれている。それは保護者や教育者が先人を思う心を忘れている結果だと思います。先祖に感謝することで今生きているありがたみを味わう。これこそが受け継ぐことの本当の意味です。そのために、年に2回の祖先の墓を参る「彼岸会」という行事が現代こそ重要視されるべきです。

先祖を参る心が社会を良くする

 とにかくどこかで墓を参るという習慣に触れることが大事です。何も肩ひじ張ったもの だけでなく、きっかけはどうあれ、気軽な気持ちで来られるような参拝でいいんです。私も小さいころよく祖母にお彼岸で連れられたのですが、それは必ずごちそうが付いてきたから(笑)。最近、核家族が増えて、仏壇のない家も多くなってます。今、自然と先祖を思うという機会も昔よりは減っているでしょう。大人たちが先祖を思う心は子どもたちが「親を思う心」に通じ、家庭安穏につながります。先進諸国で離婚率が高く、治安も悪いというのはその表れ でしょう。家庭の平和がよい社会につながります。仏に手を合わせることが世間に再び広く伝われば、また住みよい街ができるはずです。

 日本はもともと神々が生み出した国と考えると、元をたどればみな祖先は同じ親戚同士。仏教の教えに「自他不二(じたふに)」という言葉があります。自分と他人は別々でなく一つであるという意味です。みんなで先祖を思うことができれば、むやみに対立を生む社会じゃなくなる。彼岸という行事を通して、昔から伝わる教えに触れるのもよいと思います。

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