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2019/8/1

ラジオ講座「学びの時間」 8月2日〜8月23日

〈テーマ〉 伝統文化にみる現代社会の心

 広島大学OBの教職員らでつくる「広大マスターズ」の会員を講師に迎えた週1回のラジオ講座を放送します。テーマは生活、地域社会などで、全4回。8月2日〜23日の内容を少しだけ紹介します。

今回の講師 松田正典さん

まつだ・まさのり 理学博士(素粒子物理学)。1984年、広島大学教授、同大学院教授。2002年3月同退官。2006年〜09年くらしき作陽大学仏教文化研究センター長。現在、くらしき作陽大学客員教授。広島大学名誉教授。真宗保育学会設立理事(龍谷大学短期大学部)。(財)広島大学仏教青年会評議員会長。2018年秋の叙勲・瑞宝中綬賞。

 私が取り組んできた理論物理学の研究は、うつ病罹患(りかん)率の高い分野です。研究生活は、育った家庭に伝えられていた精神文化に支えられたことに相違ないと考えています。科学技術の芽も、深甚の精神文化の芽も家庭教育にあります。これについてお話し、少しでも昨今の子どもの人間形成の問題解決に役立つことを願います。

メリトクラシーとは

 英国の社会学者マイケル・ヤングは「デモクラシー」をもじって「メリトクラシー」という言葉をつくりました。メリットを登用しデメリットをカットする価値の物差しの支配する社会という意味です。メリトクラシーは戦力外通告社会を意味し、人々の心の荒廃につながります。

 近年のさまざまな悲劇的事件の背景にこの問題があります。科学文明を生きるということはメリトクラシーを生きることです。

 このメリット、デメリットという単純な物差しによって人間存在は物質化され道具化されていきます。それは個人の精神の荒廃に止まらず「原則なき政治、道徳なき商業、労働なき富、人格なき教育、人間性なき科学」という文明の衰退を招きます。

 科学技術の世界はメリトクラシーそのもので、どれほど負債を抱えていようともこれを否定する訳にゆきません。人類進化の本質に関わるものだからです。

アミタクラシーの伝承

 メリトクラシーの反対語を「アミタクラシー」と言います。「ミタ」ははかる、「ア」は否定の接頭語。アミタクラシーは、命そのものを無条件に尊しとする国家・社会です。『日本書紀』の十七条憲法に伝えられるように、わが国のアミタクラシー伝承の歴史は千年に及びます。

 問題はメリトクラシーという怪物を乗りこなす英知アミタクラシーの喪失にあります。「ゼンマイ仕掛けの時計」に(たと)えるならば、時計の針の時の刻みがメリトクラシーを生きることであり、ゼンマイがその動力源・アミタクラシーに喩えられます。

自尊感情セルフ・エスティームを守る

 近年の教育課題「自尊感情セルフ・エスティーム」とは「自分の存在は家族・職場・社会から尊重されているという感性」です。自尊心は高度な大人の精神性ですが、自尊感情は赤ん坊から老人まで一生守られねばならない感性です。メリトクラシーにおいては社会的弱者の自尊感情が常に損なわれる環境下にあります。

 東井義雄さんは「お百姓さんが言いました。下農は雑草を作る。中農は作物を作る。上農は土を作る。なるほどと思いませんか」と詠います。アミタクラシーという「土」なくして、メリトクラシーにおける自尊感情の保持は不可能と言わねばなりません。


FM東広島 放送スケジュール

FM東広島(89.7MHz)で松田先生の講座を放送します。それぞれ、日曜日17時〜、再放送をします。

第1回 8月2日(金)12時〜
メリトクラシーとアミタクラシー

●メリトクラシーとは
●メリトクラシーは戦力外通告社会
●存在を尊しとするアミタクラシー

第2回 8月9日(金)12時〜
戦力外通告社会を生きるということ

●科学技術の世界はメリトクラシーそのもの
●メリトクラシーと人類進化

第3回 8月16日(金)12時〜
自尊感情(セルフ・エスティーム)を守る社会を考える

●自尊感情(セルフ・エスティーム)
●自尊感情を守る
●東井義雄さんの名言

第4回 8月23日(金)12時〜
家庭教育―児童虐待の背景を考える

●児童虐待の社会背景
●根本的治癒のためには


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