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2018/8/2

ジイジ・バアバ、パパ・ママへ贈る

心のめばえ アヤと過ごすジイジの日記 <3>

著者/牟田 泰三
挿絵/橋本 礼子

3歳1カ月 「小さなカニさん」

 孫娘の一家と海水浴に行った。「グリーンピアせとうち」(当時はグリーンピア安浦といっていた)のオレンジビーチである。アヤにとっては生まれて初めての海水浴だ。海水浴といっても、三才になったばかりのアヤにとっては、海辺でチャプチャプやったり、干潟のヤドカリや小さなカニを捕まえて遊ぶ程度のことだ。

 ジイジも水着は着ていったものの、歳のせいかちょっと泳ぐとすぐ疲れるので、干潟でアヤと一緒にカニ やヤドカリを追っかけて遊んでいた。バケツを見るともう小さなカニやヤドカリが十数匹も入っている。

 午後も遅くなってきたので、そろそろ帰るかなという時になった。さて、このカニやヤドカリをどうしたものか、困ったぞ、車に乗せて帰れば海水がこぼれて車を汚したりする。また持って帰ったとしても海水がないとカニやヤドカリはすぐ死んでしまうだろう。でも、彼らを海辺に放つとなると、アヤのいつもの行動パターンから考えて、大泣きして地団駄踏んで持って帰ると主張するに違いない。

 さあ、どうしよう。海辺に放つ交渉がアヤとの間で成り立つとはとても思えない。それでも駄目でもともと、やってみようと、ジイジはアヤとお話しを始めた。
ジイジ「アヤ、カニさんとかヤドカリさんとか沢山捕まえたね。面白かったね。」
アヤ 「うん。」
ジイジ「砂浜(干潟)には小さな穴が沢山あったよね。あれはカニさんのお家なんだよ。ひょっとすると、このカニさんのお家もあの穴だったかも知れないね。きっとカニさんのパパやママがあのお家で待っているのかも知れないよ。『あの子は何処に行ったのだろう』って話しているかも知れないよ。カニさん、お家に帰してあげようか。」

 ジイジの話を聞いているのか聞いていないのか、アヤは黙って砂遊びを続けている。ははあ、やっぱりジイジの話は通じていないな、まあ仕方がないかと思っていた。

 それから五分ほど経った。ジイジがジュースを飲んでいると、突然、
「ジイジ、カニさん帰しに行こう。」
と言い出した。
「えっ、ジイジの話を聞いてたの。そうか、わかった。二人であの砂浜に行ってカニさん達を帰そうね。」
アヤとジイジは手をつないでバケツを持って干潟に向かった。まだ潮は満ちていなくて、カニの巣穴は干潟に沢山見えている。干潟でバケツをひっくり返すと、這い出したカニやヤドカリたちは ごそごそと散らばっていった。
アヤ 「カニさんおうちに帰れるかなあ。」
ジイジ「大丈夫だよ。きっと、帰り道は知っていると思うよ。」

 この出来事は単なる幼児の気まぐれと説明することもできるかも知れない。それでも、あの時の状況から考えると、ジイジの話を理解して、幼児の頭でいろいろと想像をめぐらしてみたら、カニさん達が可哀想になってきて、お家に帰してあげたくなったと推測するほうが自然なように思われる。三才になったばかりの幼児でも、他者の気持ちを理解して同情することができることを示しているのではないだろうか。カニさん達をお家に帰してあげた後のアヤの晴れ晴れとした笑顔がそれを証明しているように思われてならない。


プロフィル むた・たいぞう

 1937年、福岡県生まれ。九州大学理学部卒業、東京大学大学院物理学専攻修了、理学博士。京都大学助手・助教授、広島大学教授・学長、福山大学学長などを歴任。主な著書に「語り継ぎたい湯川秀樹のことば」(丸善出版)、「電磁力学」(岩波書店)、「量子力学」(裳華房)などがある。東広島市在住。


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