豆知識

書法(中国書道)(一)
書法とは何か

 私たちの日常生活の周辺にはいたるところ書道作品と言えるものが氾濫している。書物の題字にせよ看板の文字にせよそうだし、床の間に飾られている掛け軸や欄間の扁額にいたってはまさに書道作品そのものである。目にするばかりではない。私たちはみんな子供の頃から書道を習い、手紙や張り紙など、毛筆であれペンであれ、ほどほどの制作習慣までも身につけている。それでいて、あらたまって作品を鑑賞するとなると、漠然とその芸術的権威性を認めながらもなお、作品の何をどのように見ればよいのか焦点があいまいで、また何を基準に評価すればよいのか確たる物差しを持たず、常に不安ととまどいがつきまとう。そのあたりをはっきりさせることができれば、私たちは書に対してもっと親しみと確信をもって接することができるにちがいない。

 私たちの言う書道はもともと中国の「書法」そのものであったが、伝来後日本独自の民族性と文化の中で文字そのものの変遷や独自の書風の発生を見て、書法と書道の間にはいささかにニュアンスの相違が生じている。ここであえて「書法」という耳慣れない言葉を使うのは特に中国の伝統的書法を指すためである。

 文字を正確に美しく書こうとする努力は、古来中国に限らず世界の他の言語の文字でも常に続けられている。ただ中国の書法では、文字そのものが独自に生まれた象形表意文字であり、それを毛筆と墨液という表現力豊かな独特の道具を用いて、一回性(なぞりや補筆を許さない)の線描で形作るという特徴から、他の言語には類を見ない表現様式が生まれ、加えて手法の創造性と、語意や書き手の心までも直情的に表現しようとする意境・心象が貴ばれて、次第に芸術の高い「書法」へと発展していった。

 当然ながら書法では中国語、それも極度に凝縮された詩句や、古文が、場合によっては古代文学で書かれることもあり、日本人にとって一般に難読・難解であることは否めない。この点では日本の書道でも今なお好んで難解な中国語で書かれる場合が多く、私たちが書に親しむためには、どうしても相当の中国文字と中国語に対する知識を必要とする。

 更に書法作品を芸術として鑑賞するには、第一に作品が伝えようとする重大な意義を持つ情報を理解し、第二に作品の持つ創造性・独創性に着目し、第三に作品の備える美を味わうことが大切である。書法作品の芸術性が高ければ高いほど、この三点の要素は十分に理解できるにちがいない。

 概念的に、「書法」は「文学の絵画的表現芸術」と言うことができよう。

 近来あらゆる文化が大きく変貌する中で、書法・書道にも急激な現代化の動きが見られるが、ここでは基本的・伝統的な書法に論及するにとどめ、以下詳述する。

(菅 泰正)

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