
◇写実と心象描写
原始の頃の単なる記号・紋様の表記は、やがて眼前の立体的物体・形状を平面上に視覚的に転写・再現する写実描写として次第に絵画の形態を整え、次いで想像上の生物・情景の描写、更には主観的表現や心理描写へと発展していった。
中国絵画では古くから心象の描写が重視され、古く五世紀にはすでに謝赫が「気韻生動」という言葉で、写実の中にも生き生きとした内面的生命感の表現を提唱している。
◇人物画の「伝神」
隋代(六世紀末)に黄金時代を迎えた人物画では「伝神(心を伝える)」が必須の条件とされ、対象人物の形を把握するばかりでなく、内面的性格を表現することで形に生命を与えることが要求されている。このような考えは、東晋(四世紀末)の画家・顧愷之も「形が似ることを追求し、貌(精神的表情)を失ってはならない」と伝え、後に元(十三~十四世紀)の王繹も「くつろいでいる人物を遠くから観察し目に焼きつけた後、心に浮かぶ姿を描く」と述べるなど、以来一貫した基本的考えとされている。
◇山水画の「意境」
唐代(七世紀以降)に入ると画題の主流は山水画となり、すでに文学で先行していた「意境(心と境地・情を景に托した表現)」の考え方が山水画にも適用された。山水画の「意境」は人物画の「伝神」、書法にいう「豊神」に通じ、「胸中山水(心でとらえた山水)」、「意在筆先(書く前に心の中に画ができあがっている)」などと言われて、自分の意志で自然をとらえて主観的に表現することが重視された。意境の考えは更に進んで、視覚的対象の写実を超越し、意図を持って新境地を創造し表現する「造境」、「意造」へと発展した。すなわち、画は自然の複製品ではなく、心に感じた情景を描き、更には山水の画面を借りて作者の主張や人格を表現する手段とされた。十一世紀、北宋の画家・郭煕も「画家は意境に従って描き、鑑賞者もまたこれに従って見るべきである」と述べている。
「意境」の言葉に代表される心象描写の有無、多少、そしてその内容こそ、中国絵画を判断する基準とされている。